• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2011 年度 実施状況報告書

3元素系複合含水酸化物を用いた温泉排水の超高度フッ素除去・回収システムの構築

研究課題

研究課題/領域番号 23760720
研究機関島根大学

研究代表者

桑原 智之  島根大学, 生物資源科学部, 助教 (10397854)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード含水酸化物 / フッ素 / 吸着 / 無機合成 / 温泉
研究概要

本研究は,Si-Al-Mg系複合含水酸化物(以下,Si-Al-Mg系試料)をフッ素吸着剤として実用化することを目指している。現在暫定排水基準が適用されている個人経営レベルの小規模な温泉旅館を想定した廉価でコンパクトかつ一律排水基準の達成可能な高度フッ素除去技術を開発し,同時に吸着剤の再生方法・工程の構築と回収されるフッ化物イオンの再資源化システムを確立することが最終目標である。  平成23年度は,性能強化を目的にした合成方法の改良を試みた。具体的には,Si-Al-Mg系試料の合成に使用する酸の種類を,従来の「硝酸」から「塩酸」に変更して試料を合成し(それぞれ,硝酸型,塩酸型とする),構造特性の検討とフッ化物イオン吸着能力の検討を行った。XRD回折パターン及びTG-DTA曲線の結果から,塩酸型は層状複水酸化物と同様な特徴を有していることがわかり,酸が有する酸化能力はSi-Al-Mg系試料の構造にほとんど影響がないことが示された。交換性陰イオンを硝酸イオンから塩化物イオンに変更できたことから,フッ化物イオン吸着能力の検討及び陰イオン選択性の検討を行った。その結果,塩酸型は硝酸型に比べて吸着量がわずかに増大することが明らかとなり,さらにフッ化物イオン濃度が1または10mgF/Lのとき吸着速度が速くなる結果が得られた。分配係数から陰イオン選択性を検討した結果,硝酸型に比べて塩酸型では,序列第一位のフッ化物イオンと第二位の亜ヒ酸イオンの差が大きく広がり,フッ化物イオンに対する選択性が向上したことが確認できた。【要約】 塩酸を用いて合成したSi-Al-Mg系試料は,構造・結晶性に関しては従来の硝酸型と同様な特徴を有していたが,フッ化物イオンに対する吸着量,吸着速度,選択性に関しては明らかに向上することを確認した。今後は塩酸型を対象に吸着能力再生について検討する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成23年度は,Si-Al-Mg系試料の性能強化を目的に合成方法の改良を行った。強化対象とした性能は「環境性能」および「吸着能力」である。  Si-Al-Mg系試料の交換性陰イオンを硝酸イオンから塩化物イオンに変更できたことは,Si-Al-Mg系試料を排水処理に使用ても材に由来する硝酸態窒素が水環境を汚染する可能性がなくなったことを意味しており,大幅に環境性能を向上できたと考えている。吸着能力に関して,塩酸を使用したSi-Al-Mg系試料は従来試料に比べてフッ化物イオンに対する吸着量,吸着速度,選択性のいずれも向上した。  したがって,Si-Al-Mg系試料の「環境性能」および「吸着能力」の強化に成功した平成23年度は,計画通りに研究が進行していると判断し,自己点検による評価を(2)とした。

今後の研究の推進方策

平成23年度において,Si-Al-Mg系試料の吸着能力と環境性能を向上できた。研究の推進を図り,将来の実用化を目指すためには,吸着剤の性能を維持したまま,効率よく大量合成する方法を確立する必要があるが,合成方法の検討に関しては研究期間中に随時行うこととし,今後は吸着剤の再生に関する事項「最適再生液組成」と「フッ素の資源化」及び実際の温泉排水処理を想定した装置運転に関する事項「固定ろ床法の設計」を中心に行うこととする。  再生条件の検討では,まず二液再生法を適用する。二液再生法を適用しているハイドロタルサイトは炭酸イオンに対して選択性が高く,使用回数の増加に伴って炭酸イオンが材料中に蓄積することが指摘されている。一方,Si-Al-Mg系試料は炭酸イオンに対する選択性が低いことから,材料中に蓄積する可能性は低く,ハイドロタルサイトとは異なる方法で再生できる可能性がある。再生時間や薬液・設備コストなどの観点から,一液で再生することが望ましい。したがって,最終的には一液再生法の確立を目指して検討を進める。研究の進捗状況によっては,再生液組成や濃度等の条件を検討する際にSi-Al-Mg系試料のSEM画像やXRDによる構造解析を行い,フッ化物イオン吸着機構を見直すことも考慮しておく。また,再生液に回収したフッ化物イオンはフッ化物塩として析出させることによって資源化する場合,再生液の組成・濃度及びフッ化物イオン濃度が制限因子となるため,再生液組成の決定にはフッ素の資源化を考慮しておく必要がある。  しかし,現状ではフッ素に関する暫定排水基準の撤廃に対応可能なフッ素除去技術が確立していないことから,早い段階でSi-Al-Mg系試料を温泉排水のフッ素除去に適用可能であるか見極める必要がある。したがって,固定床吸着装置への適用の判断基準となる貫流容量の算出に向けて研究も進めていく。

次年度の研究費の使用計画

平成23年度は,硝酸汚染回避と低濃度フッ化物イオン除去を同時に達成する合成方法の確立を優先した。当初は酸の種類の変更に留まらず,過酸化水素などの酸化物質の添加やpH条件,温度条件,大気条件などを種々変更して合成を行う予定であったが,実際は,使用する酸の種類を変更するのみで目的を達成することができた。したがって,計画よりも試料合成回数が大幅に減り,研究費に残額が生じた。  また,合成した試料の真比重を測定するため,電子天秤を用いた装置(40万円程度)を購入予定であったが,粉体の試料には適用することが困難であることがわかり,購入を見合わせた。  次年度は,Si-Al-Mg系試料の大量合成を行うため,大量の試料を同時にエージングできるように恒温乾燥機(40万円程度)を購入する。また,試料合成と造粒に関する試薬等の費用,作成した試料の組成検討のための分析費が必要である。その他,吸着能力再生に関する試薬,固定床吸着装置を想定したカラム等の部品,送液ポンプ等の小型装置,定常的に必要となるガラス器具,ピペットチップ,シリンジ,チューブ,洗剤,キムワイプ等の消耗品,試薬類,ガス類を購入する。実験補助として謝金(1,000円×80時間程度×3名),旅費(無機マテリアル学会 学術講演会 松江市-名古屋市 1回,水環境学会年会 松江市-大阪市 1回),投稿論文費用,書籍,SEMや細孔径測定等の外部依託費を予定している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2011

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)

  • [雑誌論文] Si-Al-Mg系複合含水酸化物を用いた温泉排水からのフッ素除去に関する研究2011

    • 著者名/発表者名
      柳井 健作,桑原 智之,大島 久満,佐藤 利夫
    • 雑誌名

      粘土科学

      巻: 49(3) ページ: 128-134

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 底生生物に対する石炭灰造粒物によるリサイクル材の安全性評価2011

    • 著者名/発表者名
      斉藤 直,山本 民次,日比野 忠史,桑原 智之,花岡 研一
    • 雑誌名

      海洋工学論文集

      巻: 67(2) ページ: 1111-1115

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 機能性覆砂材のリン除去性能向上に関する基礎的研究2011

    • 著者名/発表者名
      野中 資博,兵頭 正浩,桑原 智之,佐藤 周之
    • 雑誌名

      農業農村工学会論文集

      巻: 276 ページ: 91-92

    • 査読あり
  • [学会発表] 石炭灰造粒物のリン除去とpHの関係2011

    • 著者名/発表者名
      村上 友章,桑原 智之,佐藤 利夫,小畠 正至
    • 学会等名
      日本粘土学会 第55 回粘土科学討論会
    • 発表場所
      鹿児島大学郡元キャンパス(鹿児島県)
    • 年月日
      2011年9月14-16日
  • [学会発表] Ti導入型ハイドロタルサイト様化合物の焼成と光触媒性能の評価2011

    • 著者名/発表者名
      城市 侑,桑原 智之,佐藤 利夫
    • 学会等名
      日本粘土学会 第55 回粘土科学討論会
    • 発表場所
      鹿児島大学郡元キャンパス(鹿児島県)
    • 年月日
      2011年9月14-16日
  • [学会発表] 構成元素の異なる3元素系複合含水酸化物のフッ素除去性能の比較2011

    • 著者名/発表者名
      桑原 智之,柳井 健作,城市 侑,佐藤 利夫
    • 学会等名
      日本粘土学会 第55 回粘土科学討論会
    • 発表場所
      鹿児島大学郡元キャンパス(鹿児島県)
    • 年月日
      2011年9月14-16日
  • [学会発表] 異なるpH条件における石炭灰造粒物のリン除去2011

    • 著者名/発表者名
      村上 友章,桑原 智之,佐藤 利夫,小畠 正至
    • 学会等名
      無機マテリアル学会 第123回学術講演会
    • 発表場所
      佐賀市 アバンセホール(佐賀県)
    • 年月日
      2011年11月16-18日
  • [学会発表] Ti導入型ハイドロタルサイト様化合物のヒ素吸着能力の評価2011

    • 著者名/発表者名
      城市 侑,桑原 智之,佐藤 利夫
    • 学会等名
      無機マテリアル学会 第123回学術講演会
    • 発表場所
      佐賀市 アバンセホール(佐賀県)
    • 年月日
      2011年11月16-18日
  • [学会発表] 構成元素の異なる3元素系複合含水酸化物によるフッ化物イオン除去特性の評価2011

    • 著者名/発表者名
      桑原 智之,柳井 健作,城市 侑,大島 久満,佐藤 利夫
    • 学会等名
      無機マテリアル学会 第123回学術講演会
    • 発表場所
      佐賀市 アバンセホール(佐賀県)
    • 年月日
      2011年11月16-18日

URL: 

公開日: 2013-07-10  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi