高分子膨潤微粒子を鋳型に利用して,基板上への微粒子規則配列構造の作製に取り組んだ所,基板への微粒子の吸着が困難であることが分かった。そこで高分子微粒子をミクロン化する技術を開発し,このミクロン粒子を鋳型あるいはコア-シェル構造化による微粒子の基板上への規則配列構造の構築を将来的な目標とするため,ソープフリー乳化重合法による高分子ミクロン粒子の合成方法の開発を試み,これに成功した。従来,ソープフリー乳化重合系において水溶性開始剤が用いられている所を油溶性開始剤に変え,また粒子凝集成長を促進させるために系に電解質を添加することで,最大20 μmの高分子微粒子が調製できる。添加する電解質の濃度と価数を変化させることで,0.5~20 μmまでの粒子径制御が可能である。油溶性開始剤を用いているのにも関わらず,ゼータ電位が-45 mVを示す分散安定性の高い高分子微粒子が合成できる点について考察したところ,使用するビニル系モノマー(例えばスチレンモノマー)に含まれるベンゼン環上のπ電子が関与している可能性があることが分かった。これはモノマーに含まれるベンゼン環上のπ電子密度を電気陰性度の高いフッ素を導入することで低下させて合成した微粒子のゼータ電位を測定した所,π電子密度が低下するに従い,ゼータ電位の絶対値が低下すること及びベンゼン環をシクロヘキサンに置換したモノマーやベンゼン環を有さないメチルメタクリレートモノマーを利用して合成した微粒子の表面電位が0に近いことから推定される機構である。ソープフリー乳化重合系で油溶性開始剤と電解質を用いることでミクロン粒子を合成する本手法は,従来の有機溶媒や界面活性剤を用いる分散重合法や懸濁重合法に比べて環境負荷が低いことが利点としてあげられ,今後量産化プロセスへの展開が期待される。
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