研究課題/領域番号 |
23760734
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小林 広和 北海道大学, 触媒化学研究センター, 助教 (30545968)
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キーワード | バイオマス / 触媒 / セルロース / グルコース / 炭素 |
研究概要 |
炭素を熱処理し、部分的に官能基を除去することにより、酸素官能基量とセルロース加水分解活性に相関があることを明らかにした。昨年度に得られた知見も踏まえ、活性点は含酸素官能基であると結論した。 次に、炭素触媒の含酸素官能基のモデルとして、各種芳香族化合物を用いてセロビオースの加水分解を行った。その結果、カルボキシル基とフェノール基が隣接した構造をもつサリチル酸が特異的に高い活性を示した。フェノール基とカルボキシル基が離れて存在する場合や、単に酸性度が高いだけのカルボキシル基はサリチル酸よりも低活性である。そこで、二次の速度式を仮定し、見かけの活性化エネルギーならびに頻度因子を算出したところ、サリチル酸のみ頻度因子が一桁高いことが分かった。この結果はフェノール基がセロビオースを掴まえることにより、カルボキシル基によるグリコシド結合への攻撃が起こりやすくなっていることを示唆している。実際、NMR測定の結果から、サリチル酸は特異的にセロビオースと相互作用を持つことが明らかになった。これらの結果から、酸素官能基が活性点として作用し、カルボキシル基とフェノール基が隣接した箇所は特に有効であることが分かった。ラマン散乱分析の結果から、両官能基が隣接している箇所は確率論的に20~30%もあり、触媒反応に寄与している可能性は充分に考えられる。 次に、加水分解反応がSN1機構で進行しているのか、それともSN2機構で進行しているのか検討した。求核剤(Cl-やBr-)を共存させてセルロースやセロビオースの加水分解反応を行っても、転化率と求核性には相関性が無かった。また、それらハロゲン原子が導入された糖化合物は生成しなかった。本結果から、オキソカルベニウムイオン中間体を経由するSN1機構で加水分解が進行していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画の目標は、1. 触媒活性点を明らかにすること、2. 反応中間体について速度論から知見を得ること、3. 反応機構を明らかにすることとした。 「研究実績の概要」で述べたように、報告者は1. 活性点を含酸素官能基と結論し、特にフェノール基とカルボキシル基が隣接した構造が有効であることを明らかにした。2. 反応中間体について、速度論ならびにNMRからフェノール基が基質を掴まえてカルボキシル基が反応点に近接した構造を提案した。また、3. コントロール実験からSN1機構が妥当であることを明らかにし、以上全ての結果から反応機構を提案した。従って、いずれの項目でも目標を達成しており、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
セルロース加水分解反応に最適化された炭素触媒を調製し、グルコースの効率的な合成を試みる。すなわち、セルロースの加水分解に有効な活性点(カルボキシル基、フェノール基)を炭素に選択的に導入する。具体的には、安価な炭素を原料とし、空気酸化、硝酸酸化、過酸化水素酸化を試みる。さらに、フェノール基を導入した炭素に対しKolbe-Schmitt反応を行い、積極的にサリチル酸構造を形成させる。 次に、炭素触媒の応用を試みる。炭素触媒がセルロース分解用の特殊な触媒としてではなく、酸触媒としての一般性を示す。そこで、例えばエステルの加水分解反応、気相ベックマン転移、エステル交換反応を行う。エステル加水分解は水中での酸機能を調べる典型的な反応である。また、気相ベックマン転移はカプロラクタムを合成するための反応として工業的に極めて重要であるとともに、弱酸性を示すハイシリカゼオライトが有用な触媒として知られている。従って、同様に弱酸である炭素が有効に機能する可能性は高く、しかも炭素の熱安定性は高い(600℃まで活性点を維持できる)ため、高温で行われる本反応に挑戦する価値は高い。最後に、エステル交換反応は、バイオディーゼルを合成するための反応であり、副生するグリセリンの品質をも決めるため、優れた触媒が望まれている。本反応には酸に加え、塩基も有効であるため、炭素への骨格窒素の導入も併せて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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