研究課題/領域番号 |
23760740
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
今井 裕之 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (70514610)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ゼオライト / 触媒プロセス / アルコール転換反応 / 酸触媒反応 / 小細孔 / オレフィン製造 / 酸性質制御 / 反応機構 |
研究概要 |
アルコールを出発原料としてエチレンやプロピレン等のバルク化学原料として重要な低級オレフィンを製造するためのゼオライトの合成を行った。アルコールからの低級オレフィン製造反応においては、触媒として用いるゼオライトが有する酸量、酸強度、粒子サイズ、構造等の物理化学的性質によって、生成物の種類や反応特性が大きく影響を受けることから、本年度では、これらの物理化学特性と触媒反応特性との関連性を明確にする検討を行った。通常、ゼオライトの物理化学特性は複数あり、一つの特性を変化させると、別の特性も変化してしまうが、本研究では、小細孔を有するアルミノシリケートであるSSZ-13を対象ゼオライトとし、その合成条件を最適化することで一つの物理化学特性のみを変化させることに成功した。特に、粒子サイズのみの変化、酸量のみの変化、ゼオライト構成元素のみの変化を達成することを可能にした。これにより、一つに物理化学特性が反応結果に及ぼす影響を純粋に評価できるようになり、また、これらの合成手法は他の構造のゼオライトにも適応でき、同一物理化学特性を有する異なる構造のゼオライト間での反応特性評価にも繋がると考えられる。今回合成したSSZ-13を用いてアルコール転換反応の反応評価を行ったところ、粒子サイズのみを変化させた場合には、生成物は粒子サイズによらず全てのゼオライトで同一で、触媒の寿命が粒子サイズの減少とともに長くなる結果が得られた。一方で、酸量のみを変化させたところ、酸量の減少により触媒寿命が延びたが、極端に減少すると逆に寿命は短くなる結果が得られた。生成物は酸量を変えても、ほぼ同一である結果を示した。また、新規合成手法を確立するために、通常は合成に用いられる有機化合物を使用しない条件での合成を検討し、従来よりも短時間で同一構造を合成することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルコール転換による低級オレフィンの製造反応において用いられるゼオライトの物理化学特性と反応特性との関連性は不明瞭であり、その関連性を明確化すること、そしてそのためのゼオライトの合成および明確化された関連性に基づいた新規ゼオライトの合成が本研究の目的となっている。ゼオライトを触媒に用いた場合に、物理化学特性と反応特性との関連を検討する際に困難となるのが、同一条件で一つのファクターのみの影響を検討することである。本研究で、SSZ-13を対象ゼオライトとして、初めて一つの物理化学特性のみを変化させて合成することに成功し、それにより純粋にゼオライトが有する一つのファクターの反応特性への影響を詳細に検討することができた。且つ、ゼオライトの粒子サイズ、酸量、構成元素のそれぞれのファクターのみの影響を詳細に検討することができ、それぞれの物理化学特性と反応特性の関連性を明確化することに成功した。さらに、従来よりSSZ-13の合成において使用される有機化合物を使用しない新規合成法の開発にも成功し、従来よりも簡便な手法でゼオライトを合成することができ、且つ合成法の違いによる反応特性への影響についても検討を行うことができるようになった。上記の項目は、検討項目に掲げた内容を十分にカバーし、さらに掲載内容以上の検討を行えているため、当初の計画以上に進展していると評価したいところではあるが、今回検討した項目内容は、合成条件の最適化による新規ゼオライトの合成とその反応特性の評価であり、合成したゼオライトを修飾や後処理することによる物理化学特性の変化の検討と、その変化による反応特性への影響については未検討であるため、おおむね順調に進展しているとの自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
アルコールからの低級オレフィンの生成効率および触媒耐久性の更なる向上を目指して、合成ゼオライトへの修飾処理を行い、修飾処理によるゼオライトの物理化学特性への影響および反応特性への影響を評価する。修飾法を用いることで、合成時には直接取り込めない特性の付与、結晶の部分的な箇所の制御が可能になる。さらには、ゼオライト構造が有する特性と複合化させることで、新たない機能の付与も期待される。また、ゼオライト結晶には、細孔内と外部表面とで異なる反応場を有していることから、細孔径よりも大きい分子を用いて結晶外表面のみを被覆することで、反応場を細孔内に限定できる。外表面修飾分子よりもややサイズの小さい分子を用いることで、細孔入口近傍まで修飾し、細孔径の制御も検討する。これにより、細孔を通過できる分子の大きさおよび形状を制御する。さらには、イオン交換法、含浸法により各種金属イオンを酸点と交換または酸点へ付与を検討する。用いるイオン種を選ぶことで、酸点との相互作用の程度が変わり、酸強度の制御が可能となる。イオン種の量を変えることで酸量を、大きさを変えることで相互作用できるゼオライト構造内の配置の制御を行う。イオン種のサイズを変えることでゼオライト細孔および空隙が残る割合を変えることが出来ることから、酸性質と同時に細孔径・細孔容量の制御も可能になる。反応一回での触媒反応特性のみならず、再生処理による繰り返し使用耐久性の検討も行うことで、より実用化を目指した新規ゼオライトの合成へと繋げる。触媒上での反応基質、生成物の挙動を分子レベルで理解することは、新規触媒開発にあたり、精密制御のための重要な情報源となる。反応中の分子の挙動を追跡することで、アルコール転換反応における反応機構の解明に繋がり、また触媒物性と反応分子との相関関係の総括的な解明にも繋がる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画に基づいて研究を次年度も継続していくことを予定しており、基本的には、アルコール転換反応による低級オレフィン製造のための新規ゼオライトの合成と触媒反応特性の評価を継続していく。このため研究費の使用用途としては、基本的には、ゼオライトの合成にかかる原料試薬および次年度では合成ゼオライトの修飾処理を行うことから、この修飾処理にかかる試薬の購入となる。また、アルコール転換反応における触媒の反応活性評価にかかる費用としては、反応原料試薬、ガスボンベ、評価装置の維持にかかる諸々の消耗物品の購入に研究費を使用する予定である。さらには、新規に合成したゼオライト触媒および修飾処理を施した触媒の物理化学特性評価にかかる諸費用、主には評価装置使用時の前処理に使用される試薬またはガス類の購入および評価装置の維持費への研究費の使用を予定している。上記、ゼオライトの合成、触媒の物性評価、アルコール転換反応での触媒反応特性評価は年度を通して継続的に行うことになるので、これらにかかる諸費用、基本的には消耗品類に適宜、研究費を使用していく予定である。また、研究成果を学会で発表する際には、発表にかかる参加費用および旅費が必要となり、次年度には国内および海外での発表機会があるため、これらの学会への参加費用としての使用も予定している。学会への参加は成果発表のみならず、参加時点での国内外の研究情勢を把握するための情報収集の場としても活用する予定である。その他にも、研究成果の発表を査読付き論文で行う予定でもあり、そのためにかかる諸費用に対しても研究費を使用する予定である。また、消耗品、特に装置の維持に必要なガス等は年度末まで随時購入が必要となり、年度末に購入した物品等の支払いが4月になってしまったため、今年度に残額が生じてしまい、年度を跨いだ購入品への支払いを本年度残額で執行する。
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