研究課題/領域番号 |
23760741
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
稲垣 怜史 横浜国立大学, 学際プロジェクト研究センター, 特任教員(助教) (90367037)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化触媒 |
研究概要 |
本研究では,MSE骨格をもつTi含有MCM-68ゼオライトを酸化触媒とする,過酸化水素によるフェノールの酸化により,環境調和型触媒プロセスによる二価フェノールの高選択製造を目指す。とくにTi-MCM-68の調製条件を制御して,H2O2の過分解を抑制でき,かつパラ体の二価フェノールであるヒドロキノンを高選択的に生成する酸化触媒を構築することを目的としている。研究初年度である2011年度には,Ti-MCM-68(MSE)の疎水化によるフェノール酸化活性の向上に焦点を当てて研究を進めてきた。MSE型ゼオライトは,12員環ストレートチャンネルと曲がりくねった2つの10員環チャンネルが交わる三次元細孔構造を有する。通常アルミノシリケートとして水熱合成により得られ,そのSi/Al比は9~12程度に限定される。これまでのところ,MSE骨格を有するチタノシリケートを水熱合成にて直接得ることはできていない。本研究ではAl-MCM-68にAlが多く含まれていることに注目して,骨格内のAlをTiで同型置換することにより,Ti-MCM-68を調製することとした。 具体的には水熱合成したAl-MCM-68を,(1)酸処理による脱Al処理,(2)TiCl4蒸気によるTi導入処理,を順次行うことで,Ti-MCM-68を得た。続いて,(1)加熱温度を400~900℃に変える,(2)加熱時のガス雰囲気を空気からN2,Arなどの不活性ガスに変える,などの加熱条件を変化させて得られるTi-MCM-68の親・疎水性の変化を調べた。得られたTi-MCM-68を650℃で高温加熱すると疎水性が高まること,フェノール酸化活性が向上すること,また加熱ガスの雰囲気による疎水化の度合いはあまり変わらないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母体となるAl-MCM-68を再現よく調製できること,高い酸化活性をもつTi-MCM-68を再現よく調製できること,触媒反応(フェノール酸化)の生成物の同定をガスクロマトグラフを用いて再現よく行えること,を達成した。これらの事実はTi-MCM-68が高活性および高選択性を発現する理由を検討するために必須である。また,いくつかのチタノシリケートの親疎水性の評価も水蒸気吸着測定を行うことで成しえることが明らかとなった。これらの成果を受けて次年度以降,調製した各チタノシリケート触媒で,さまざまな反応条件で触媒反応を実施することができる環境が整ったため,研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
フェノールの酸化でのヒドロキノンへの選択率を比較すると,TS-1ではヒドロキノン/カテコール比=1.0~1.5程度であるのに対して,Ti-MCM-68ではヒドロキノン/カテコール比>4.0以上となる[15]。申請者はTi-MCM-68でのヒドロキノンの高選択生成の理由は,MSE構造中の一次元12員環ミクロ孔構造に由来する"形状選択性"であると考えている。これを確かめるためにまず,12員環ミクロ孔内でフェノールの酸化が進行していることを確認する。具体的な触媒設計としては,脱AlしたMCM-68に対して,(1)嵩高く12員環ミクロ孔に入ることができない大きさである,triphenylsilyl chloride (TPSCl)により外表面シラノールの選択的な修飾,(2)TiCl4蒸気によるTi導入処理,(3)高温加熱(焼成)によるphenyl基の除去,を順次行い,ミクロ孔内のみTi修飾されたTi-[ ]-MCM-68-calを得る。調製したTi-[ ]-MCM-68-calでフェノールの酸化を行い,通常の手法で調製したTi-MCM-68での反応結果を比較し,同等の酸化活性が得られ,より高いヒドロキノン選択率となるかどうかを検証する。ヒドロキノン選択率が高ければ,12員環ミクロ孔内で"形状選択性"が発現している裏づけとなる。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に引き続き,チタノシリケート触媒の調製に必要な薬品やガスボンベを消耗品として購入する。また初年度で得られた研究成果については国内外の学会で発表することを考えているのでその参加費・旅費の使用を計画している。
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