ヒト膜タンパク質を抗原とする抗体のアッセイは、自己抗体の検出や抗体医薬の開発において重要な基盤技術であるが、従来の微生物や哺乳類培養細胞を宿主とした組換えタンパク質発現技術では、翻訳後修飾を伴ったネイティブフォームのヒト膜タンパク質を効率良く調製することが、細胞毒性や発現量の問題で困難なケースが多くあり、このことが診断法の開発や創薬研究のボトルネックとなっていた。そこで本研究では、本研究代表者らが世界に先駆けて開発した“魚類初期胚細胞によるヒト膜タンパク質リコンビナント発現システム”を応用して、ゼブラフィッシュに脊椎動物型の翻訳後修飾やネイティブフォームの立体構造が保存された組換えタンパク質を発現させて、それを抗原とする新規な抗ヒト膜タンパク質抗体アッセイシステムの構築に取り組んだ。本研究では、特発性膜性腎症の責任抗原であるPhospholipase A2 receptor(hPLA2R)をモデル抗原として、立体エピトープを特異的に認識することが知られているヒト抗PLA2R IgGを用いて、アッセイ系の構築と実証試験を行った。その結果、ネイティブフォームに近似したリコンビナントPLA2Rを調製することに成功した。さらに、得られたリコンビナントPLA2Rを抗原として、PLA2Rの立体エピトープを特異的に認識するヒトIgGを測定することに成功した。本研究の結果から魚類発現系を基盤とした抗ヒト膜タンパク質抗体のアッセイシステムは、自己抗体のモニタリングだけでなく、抗体医薬品の開発などにも有用な基盤技術となる可能性が示唆された。
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