研究課題/領域番号 |
23760767
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30371115)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 数値流体力学 |
研究概要 |
本研究は、任意の複雑形状に対しては解析が困難である乱流境界層や衝撃波等の現象を高速かつロバストに捉え、その知識を航空機概念設計に迅速に反映させるための数値流体解析法、概念設計指向の数値流体解析法を構築することが目的である。第1段階では、計算機環境の整備および、概念設計指向数値流体解析法の構築を行う第2段階では、概念設計指向数値流体解析コードの高度化を実施する。乱流モデルの組み込みや並列計算に向けた検討など、航空機概念設計への適用を視野に入れた改良を実施する。第3段階では、概念設計指向数値流体解析法の成果を環境適合型革新的航空機の概念設計に適用する。平成23年度は、主に第1段階の課題を実施し、計算機環境の整備およびベースとなる概念設計指向数値流体解析法(PDOC)の構築を主として行った。初めに計算機のやコンパイラ・後処理可視化ソフトウェアの整備した。大学院生を含め複数の研究者が同時にプログラム開発を行えるよう、バージョン管理を導入したソフトウエア開発環境の構築を行った。続いて、2次元版および3次元版の完全自動格子生成するプログラムを作成した。併せて、2次元版および3次元版のオイラー方程式並びにナヴィエ・ストークス方程式に基づく流体ソルバーを構築した。これにより、本研究が目指すコード開発の基礎となる部分の構築が完了した。開発したコードを用いて解析解の存在する基礎的な流れ場との比較検証を中心としたプログラム検証を実施した。発表に関しては、国内の研究会・講演会で合計3件の口頭発表を行った。また関連した研究を実施している東北大学との情報交換を積極的に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度は、概念設計指向数値流体解析法(PDOC)の構築を主として行い、本年度の大きな目標であった、完全自動格子生成するプログラムの作成及び、オイラー方程式&ナヴィエ・ストークス方程式に基づく流体ソルバーの構築ができた。いずれも2次元版と3次元版のコードが完成できたことから、平成24年度以降の研究を遂行する上での礎を築くことができた。開発にあたり、当初は2次元版の拡張により3次元版コードが完成できると見込んでいたが、3次元版においては特にプログラムの高速化が開発の初期段階から必須である事が明らかになった。そのため、冗長なプログラム部分の改修のみならず、物体交差判定アルゴリズムの高速化や形状データのグループ化等の高速化アルゴリズムを新たに取り入れることにより、課題を解決した。壁境界条件については、当初は一次元方向に高解像度が求められる境界層や衝撃波等の領域で一次元的な線分格子を用いる予定としていたが、コード開発を行う過程で、直交格子が本来保有する、単純なアルゴリズムを大きく損なうことが明らかになってきた。そこでオイラー解析において埋め込み型境界法に基づく境界条件を新しく開発したコードに適用できるように修正し、実装した。その結果、階段状に取り扱った境界条件では計算が発散してしまう遷音速流れの条件においても、安定な収束解が得られる事を示した。粘性壁条件の計算では、階段状壁面条件で層流境界層が正しく計算できるレイノルズ数域を明らかにした。レイノルズ数が10~1000程度では、ブラジウスの層流境界層分布と一致したが、10000程度になると階段状壁面条件の影響により正しく計算ができなかった。この点については、次年度以降の課題として取り組む予定である。ソルバーの開発のみならず、境界条件の詳細な検討も実施できたことから、当初の予定以上に研究を遂行することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
基礎となる概念設計指向数値流体解析コードが完成したことから、平成24年度はその高度化に取り組む。平成23年度の研究から、壁境界条件の設定方法が直交格子コードの要となる事が明確になった。特に、実機高レイノルズ数流れ場解析を目的とした乱流モデルの組み込みを視野に、壁近傍での取り扱いを工夫する予定である。これまでの、レイノルズ数平均ナヴィエ・ストークス解析は、既存の乱流モデルを利用するために壁面鉛直方向に細かくかつ連続的に生成された計算格子が求められ、格子生成に対する制約が大きかった。そのような格子を作成して計算するアプローチをとった研究が存在するが、結果的に直交格子法が本来有する格子生成や流体計算上のメリットが損なわれることが明らかになってきている。そこで、本研究では、格子生成、乱流モデルのバランスを取りながら、両者を改良する方針をとることによって、格子生成の負荷を減らし、高レイノルズ数流れ場解析を可能とするソルバーの開発を目標とする。物体壁面付近の格子が従来の乱流モデルで要求される細かさより粗くできる壁モデルを採用することにより、高レイノルズ数流れ解析が可能となると考えられる。このようなモデルが完成することにより、従来よりも高速かつ簡便に複雑形状の流体計算が可能となり、概念設計への展開が進むと考えられる。計算結果については、数値流体力学のベンチマーク問題との比較を通じ検証するとともに、本コードを環境適合型革新的航空機の概念設計への適用を視野に拡張する予定である。また研究成果については、論文に取り纏め、積極的な発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降は、500千円以上の購入は予定していない。内訳は、ソフトウェア保守費用(100千円)、計算機用磁気記録ディスク(50千円)、論文別刷り(100千円)、国内旅費、外国旅費(600千円)、その他(50千円)を計画している。
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