現状では、造船所の労働安全の管理者やスタッフは災害の事後対処に翻弄されており、リスクアセスメントによる災害の事前対処への転換が課題である。作業および作業環境の合理的な安全改善を目標とするリスクアセスメントにおいて、安全の改善対策実施における工場長等の意志決定者と対策実行者の間で合意し易くするために、改善対策の安全性を定量的に評価することを目的とする。本研究では、造船所の重大危惧災害である墜落・転落災害の要因となる身体バランスの崩壊を誘発する歩行路環境について、ゆらぎ解析法による安全性の定量的な評価の検討を行った。 労働災害の発生リスクの軽減を図るためには、事故発生のメカニズムを明らかにして予防策を講じる必要がある。スラットコンベアを用いた造船工場のNC切断工程では、多くの切断部材の寸法からスラット間隔が150mm程度と広く取られることが多い。このコンベア上を作業者が端材処理、部材消し込み作業のための移動、クレーン作業することがあるが、バランスを取りにくい所を歩行するため、身体バランスを崩す恐れがある。本研究では、スラットコンベア上の歩行移動について、スラット間隔を変えられるモックアップおよび実際の造船工場で使われている間隔が異なるコンベアにおいて歩行実験を行った。実験の比較から歩行路環境が歩行時の身体バランスに与える影響を調査した。足裏にスラット面から働く足底圧分布のデータの特徴を抽出し、これを基にして、歩行路環境の安全性評価の検討を行った。 スラットの間隔が大きいときは身体バランスが安定した歩行が出来ずに、バランスのゆらぎが大きく、スラット間隔がある値より小さくなると、ゆらぎの減少が見られることから、安定した歩行を保てるスラット間隔の上限について検討した。以上から、身体バランスが安定した歩行を保つにはスラットの間隔や歩行角度は歩行路検討の重要な要素であることが分かった。
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