研究課題
本研究提案では、遠隔的酸化還元反応によって環境中に発生する電流を積極的に利用する『環境電流生態系』(Environmental Electric Ecosystem: E3)が存在するという作業仮説を立て、E3 の存在量とメカニズムを解明することを目的としている。E3 の理想的なモデルとなる深海熱水孔環境について、現場環境および実験室内に構築した疑似環境について分析を行ない、環境電流と微生物代謝の相互関係を解明し、地球上のバイオマス生産の未知メカニズムの解明に役立てる。このための解析方法として、疑似熱水系や実際の熱水系における発電の解析、微生物相の解析、バイオマス生産の解析を挙げている。当該年度においては、実験室において疑似的な熱水-海水発電システムを作り硫化鉱物の電極および導電体としての能力を検証した。さらにこれらの結果を踏まえて深海熱水系に熱水-海水発電システムを構築し、熱水系が実際に発電能力を有することを確認し、その潜在的発電力を数値として示した。また、深海熱水系における現場電気化学解析で得られた結果を実験室における電気培養の培養条件に反映させることで、熱水系を模した電気培養を行った。同条件において微生物が硫化鉱物に対して電気的吸着を引き起こすことも明らかになった。ただし、実際に熱水系から電気栄養性独立栄養性微生物の単離にはいたっていない。熱水系電流のバイオマス生産に与える影響を調べるために、炭酸固定反応を仲介する電子運搬タンパク質の電極間との相互作用の解析も行った。今後より多様な化学反応の電流および電極との作用を観察することで、生態系および化学進化ににおける環境電流の重要性が明らかになると期待できる。
3: やや遅れている
深海熱水系の電気化学的解析は順調に行え、期待される結果を得ることができた。またその結果を実験室でもモデル実験に反映できてもいる。次年度にはさらに展開された研究計画が実行される見込みである。一方で、実験室レベルで生態系と環境電流の影響を調査する実験では、当初計画されていたほどの結果は得られていない。深海熱水系の環境を実験室で再現することが困難であることに加え、電気栄養性独立栄養性微生物の単離という難題にいきなり挑み過ぎたことが原因であると考えている。もう少し生育条件をゆるくし、広くいろいろな自然環境に生物源を求めることで環境電流生態系に関わる微生物が得られ、研究が進展するものと考えている。また、上述したように次年度にはより進展した深海熱水系の現場電気化学解析を行う予定であるが、この計画の中には生態系の解析も含まれているため、ここからの進展もおおいに期待できる。
深海熱水系おける環境電流のモニタリング、および関連する微生物相の解析は、本研究提案の根幹部分であるために精力的に進める予定である。具体的には自律駆動式の電気化学測定装置および発電システムを深海に設置し、長期的な環境電流のモニタリングや現場解析を行うと共に、発電システムに付着した鉱物や微生物相の解析をすることで、環境電流-鉱物-微生物の相互作用を明らかにすることを目指す。また、微生物学的、生化学的な知見を深めるために、引き続き、モデル実験において電流下における微生物や酵素の反応の動態を観察・解析を行う。
H24年度に使用する予定であった研究費の一部は当機構の一般予算で賄えたため使用残が生じた。この残額は次年度の研究費に使用する計画である。なお、次年度の研究費の使用計画は以下の通りである。物品費:主に消耗品の購入に充てる。具体的には深海用電気化学測定装置や発電システムの電極、水中ケーブル、コネクタなど、また実験室用の微生物培養装置や酵素反応解析の消耗品や試薬の購入に使用する。旅費:成果を学会等で報告するためや、実験機器の作成のための意見交換のための国内出張の旅費に充てる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Applied and Environmental Microbiology
巻: 78 ページ: 1311-1320
10.1128/AEM.06491-11