研究課題/領域番号 |
23760803
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野上 修平 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00431528)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 低放射化フェライト鋼 / 疲労 / 照射損傷 / 微小き裂発生 / 表面構造 |
研究概要 |
本研究では、核融合炉用低放射化フェライト鋼とその溶接部を対象に、照射と動的応力負荷によるナノレベル表面構造変化と微小き裂発生の機構に関する普遍的な学理を究明し、微小き裂発生の予兆検知に適用可能な指標の開発と、発生寿命延伸のための対策技術の構築を目的とする。平成23年度は、まず、地震のため故障した疲労試験機と東北大学ダイナミトロン加速器を修理し、動作確認および種々の調整を実施した。次に、低放射化フェライト鋼F82H-IEAの非照射材について、50μm以下の微小き裂発生寿命と発生サイトを調査するため、室温大気中において低サイクル疲労試験を実施した。試験片は、平行部が1.2 mm x 5 mm x 0.5 mmの平板試験片を使用した。疲労試験は、R=0の荷重制御において、最大引張応力600 MPa、荷重負荷速度16 N/secのもと実施した。約100サイクル毎に試験を止め、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)による表面観察、電子後方散乱回折(EBSD)によるき裂発生サイトの評価を実施した結果、1200サイクルまでの試験により、ラスマルテンサイト境界やブロック境界、旧オーステナイト粒界において微小き裂の発生が確認された。これらのサイトは、低放射化フェライト鋼のラスマルテンサイト構造を構成する基本部位であることから、F82H-IEA非照射材における微小き裂発生サイトは、特定の部位には限定されないことが明らかになった。さらに、この非照射材の評価と並行して、微小き裂発生寿命と発生サイトに及ぼすはじき出し損傷の影響を調査するため、ダイナミトロン加速器を使用してプロトン照射を実施した。照射温度は300℃、照射量は1 dpaとした。この照射材の評価は平成24年度に引き続き実施し、非照射材の結果と総合評価し、微小き裂発生寿命と発生サイトに及ぼすはじき出し損傷の影響を明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災の影響で研究開始が遅れ、さらに既存装置の地震による故障からの復旧に時間がかかったが、プロトン照射材を対象とした微小き裂発生寿命と発生サイトの評価が若干遅れているものの、当初予定の平成23年度実施項目をおおむね完遂した。よって、全体としては目標達成に向けおおむね順調に進展していると考えられる。特に、低放射化フェライト鋼の疲労下における微小き裂発生寿命と発生サイトを高精度に評価した例は極めて少なく、貴重な知見が得られたと考えられる。この結果は、現在実施中の照射材の評価結果と合わせて、平成24年度に学会発表や論文投稿などにより公表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、平成23年度に引き続き、低放射化フェライト鋼F82Hを対象に下記(1)(2)を実施し、疲労負荷・照射条件と表面構造変化および微小き裂発生の相関・機構を究明し、微小き裂発生予兆検知指標を抽出する。さらに、F82H溶接材に対しても同様の評価・分析をする。F82H溶接材は、日本原子力研究開発機構により最適化されたTIGまたはEB溶接材を使用する。(1) 微小き裂発生までのナノレベル表面構造連続解析微小き裂発生に至るまで、試験を定期的に中断し、AFM、SEMおよびEBSDなどを用いて照射および疲労負荷の作用した領域の表面構造を解析する。これにより、ナノレベルの表面構造の疲労過程における連続的な発達過程を定量化・視覚化する。(2) 微小き裂発生予兆検知指標の抽出本研究の評価・分析結果を基に、突出し量、入込み量、すべり線間隔、すべり変位量などの指標について、照射温度依存性、照射量依存性、負荷繰返し数依存性などを整理し、照射下での微小き裂発生予兆検知に適用可能な指標を抽出し、その適用範囲と精度を定量化する。平成25年度は、平成24年度までにキャラクタリゼーションした微小き裂発生サイトのナノレベル表面構造と内部組織の知見を考慮し、機械研磨と化学研磨による再生研磨条件と寿命延伸率との関係を系統的に調査する。研磨の効果としては、(1)き裂発生の起点となるナノレベル表面構造の除去と(2)加工ひずみや残留応力の導入というメリットとデメリットが同時に存在するため、研磨量、研磨速度、研磨温度などを調整し、申請者の研究としての実績である寿命延伸約2倍を超える、最適な研磨条件を導出する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していた外注による疲労試験機治具の製作を学内工場における製作に変更したこと等により生じたものであり、次年度以降に実施する疲労試験や照射試験に必要な経費として、平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。
|