研究課題/領域番号 |
23760812
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
高橋 裕己 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (00462193)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 電極バイアス / トロイダルプラズマ / 閉じ込め改善 / イオン粘性 / 径電場 |
研究概要 |
トロイダルプラズマにおける閉じ込め改善現象では、プラズマ中の径電場が重要な役割を果たすことが理論的に予測されており、その実験的な検証は本質的に重要である。大型ヘリカル装置LHDには、重イオンビームプローブ(HIBP)が設置されており、プラズマ中の空間電位分布を計測することが可能である。平成23年度のLHDでの電極バイアス実験では、電極バイアスによる閉じ込め状態の遷移前後の径電場の変化を計測することを目的として、HIBP計測で高いS/Nが得られるような磁場条件を検討し、実験を実施した。これにより、閉じ込めの遷移後は、プラズマコア領域では電場の大きな変化がないこと、一方、プラズマ周辺部においては正電場が増大することが示された。遷移に対するイオン粘性の役割を検証するために、理論モデルとの比較研究を進めた。電極バイアスによる閉じ込め遷移条件の磁場配位依存性を実験的に評価した結果、磁気軸外寄せの磁場配位であるほど、遷移に要求されるフロー駆動力が大きくなり、また、径方向の電気抵抗率が小さくなることがわかった。径方向の電気抵抗率はプラズマに与えたトルク当たりの回転の大きさに相当する。以上より、外寄せの磁場配位であるほど、プラズマは回転しにくく、また、遷移に要求されるトルクが大きくなることが示された。これらの実験結果は、Shaingの粘性モデルの予測と定性的に一致した。また、FORTEC3Dコードを用いた、電場・粘性のシミュレーションを開始し、遷移に要求される電極電流や電極電圧が実験と矛盾しないという初期結果が得られている。ヘリオトロンJでは、装置の磁場コイル電流を任意に制御できるように、定電流・定電圧電源を整備し、実験対象の磁場配位を飛躍的に増加することに成功した。平成23年度は3種類の磁場配位で実験を実施し、バイアスによる電場の変化、遷移条件の系統的なデータを取得することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題ではトロイダルプラズマにおける閉じ込め改善モード遷移に対する新古典イオン粘性の役割を検証するために、以下のマイルストーンを定めて研究を推進する。(1) LHD, ヘリオトロンJでの電極バイアスによる閉じ込め遷移条件と、新古典理論から予測されるイオン粘性の臨界条件(粘性の極大値)との整合性を検証する、(2) 複数の磁場配位で実験を実施し、イオン粘性のポロイダルフロー依存性、遷移駆動力・臨界イオン粘性の磁場リップル構造に対する依存性を取得する、(3) 実験結果と新古典理論の計算結果を、磁場構造が大きく異なるLHD, ヘリオトロンJ, CHS, TU-Heliacの4装置間で比較し、閉じ込め遷移条件のデータベースを構築する。平成23年度は、LHDでの電極バイアス実験における遷移駆動力と粘性モデルとの比較を標準的な一配位のみで行う計画であったが、実際は、複数の磁場配位において遷移駆動力の評価と理論モデルとの比較がなされており、それらが定性的に一致することが示されている。また、HIBPを用いた電極バイアス時における径電場の実験的評価の実施、理論モデルの妥当性の検証のために、従来のShaingモデルとは異なるFORTEC3Dによる粘性シミュレーションへの着手等、当初計画よりも研究が進展している。ヘリオトロンJにおいても、新たにコイル電源を整備することで、電極バイアス実験の対象磁場配位が増加し、遷移条件のデータベース構築のための大きな前進が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) LHDではイオン粘性力のポロイダルフロー依存性は磁場配位によって大きく変化する。平成23年度までの実験では磁気軸が比較的内寄せの磁場配位(磁気軸位置3.53 m, 3.6 m)において、電極電圧ランプアップ/ランプダウン実験が行われ、ヒステリシスを有するプラズマ閉じ込めの遷移が実現された。しかしながら、実験で用いたバイアス電源の定格電圧650 Vに対して、遷移領域に相当するバイアス電圧は420-600 Vと高く、高閉じ込め領域ではマージナルな条件でのデータ取得に留まっている。さらに、より磁気軸外寄せの磁場配位では遷移電圧はさらに大きくなることが理論的に予想されており、実際の実験でも、バイアス電源の定格電圧出力の範囲では遷移は実現されていない。この問題を解決するために、LHD電極バイアス実験の条件において、充分な電圧尤度を有する1000 V/15 Aの直流フローティング電源を新規に導入し、高閉じ込め領域のプラズマ閉じ込め特性評価、並びに、遷移閾値の磁場配位依存性を取得する。(2) ヘリオトロンJ装置において、粘性のフロー依存性が大きく異なる磁場配位の選定を行い、それらを対象に電極バイアス実験を実施する。さらに粘性モデルによる遷移条件の予測結果との比較を行い、遷移閾値のデータベースの拡充を行う。(3) イオン粘性の磁場リップル構造依存性を解明し、遷移に対する粘性の役割を明らかにするために、LHD並びに、LHDとは装置サイズ・磁場構造の大きく異なるトロイダル装置であるTU-Heliac、CHS、ヘリオトロンJでの粘性の振舞いを規格化したパラメータで整理し、データベース化する。最終的には実験的に得られた遷移閾値の実験データ群と理論予測との整合性を評価し、閉じ込め改善現象の新古典理論による解釈の検証へと発展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
高閉じ込め領域でのプラズマ特性の取得と外寄せ磁場配位での閉じ込め遷移の実現のため、従来のバイアス電源(650 V/23 A)よりも高電圧出力が可能な直流電源(1000 V/15 A, 松定プレシジョン, PRH1000P-15)を導入する。導入時期は8月を予定している。平成24年度の研究費は本電源とその制御ユニットの購入に全て充てられる。
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