研究課題/領域番号 |
23760819
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
東條 寛 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 核融合研究開発部門, 博士研究員 (80549212)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | トムソン散乱 / ダブルパス散乱 / その場較正 |
研究概要 |
本研究の目的は、核融合プラズマでのトムソン散乱計測において、透過率(感度)を用いない電子温度計測法を含んだその場相対較正法の実証とそのための検討を行うことである。平成23年度は、東京大学のTST-2装置での既存のトムソン散乱計測システムで、較正実験を行った。本手法は一度プラズマに入射した計測レーザーをミラーで折り返し(ダブルパス散乱法)、計2回の散乱信号の比を用いる。直接計測した透過率のデータを使用せず、電子温度を計測し、その電子温度で既に計測した信号強度を用いて相対的な透過率を求める。実験結果として、100eVから400eVの電子温度領域において通常の計測手法(較正はプラズマ実験前に標準光源を利用した既存の手法で行った)で計算した電子温度と、本手法によりプラズマ実験からのデータのみで計算した電子温度が一致することを明らかにした(7%程度の誤差)。また、厳しい放射線環境による未知の透過率変化を模擬するために、分光器内の特定の分光チャネルに減衰フィルターを取り付け、相対透過率の変化がその場で察知できるかを調べた。計測波長領域が広い分光チャネルを除いた全ての分光チャネルで、本手法で計算した透過率が、実験前に直接計測した真値と比べ5%程度の誤差で一致することを明らかにした。この電子温度の計測手法、相対透過率のその場評価は、厳しい放射線環境での計測と光学部品等の透過率劣化の察知を可能にするという点で、核融合プラズマ実験にとって有用な計測法となる。本手法で計測する電子温度の精度は電子温度自体や集光光学系と計測レーザーの位置関係(散乱角)に依存する。より高い性能を伴うプラズマ(高電子温度)や異なる計測システムの配置での実証実験を行うために、電子温度の精度の変化をシミュレーションから評価した。散乱角が105°程度以上、電子温度は高いほど、求める電子温度の精度は良好であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は平成23年度に(1)実証実験準備、(2)電子温度計測、(3)相対透過率計測(その場較正)を行う予定であった。(1)については、直接較正するための治具の改造(より円滑に実験を行うために必要)を除き、レーザーのアライメント、相対透過率の直接測定のシステム作成は問題なく終了し、実験はいつでも出来る段階にある。(2)については、100eV-400eVの比較的低い電子温度領域ではあるが、電子温度の計測手法としては原理的に実証でき、達成していると言える。(3)についても、数種類の透過率パターンについて正しい相対透過率の計測が評価でき、達成している。学会等の発表も国際会議2回、論文投稿数は2となり、平成24年度に予定していた相対透過率計測に関する発表も前倒しすることが出来ている。以上により、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度、球状トカマクTST-2装置で行った実験結果をベースとし、実験パラメータ(電子密度、散乱角、計測波長領域)に着目を置き、電子温度の精度の詳細評価と必要な実験を行う。更には、核融合プラズマでの計測で必要とされる高温領域や、他の散乱角での実証実験を行い平成23年度に理論的な評価との比較及び検証するのは非常に重要である。平成24年度は、以上を行うために、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDにて、高電子温度、大きな散乱角で実証実験を行う。以上より実験的な計測精度の評価を複数の装置で、幅広いパラメータ領域で進める予定である。また、本手法は、高周波加熱等による電子温度の磁場の方向について非等方性がある場合を考慮しておらず、電子温度の評価を誤る可能性がある。しかし、磁場の垂直方向、水平方向についての電子温度を未知のものとして、実験データ(ダブルパス散乱法における、第一パス、第二パスの信号比)と比較すれば、2方向の電子温度が計測出来る可能性がある。本提案をシミュレーションにより、計測精度を評価し、非等方性が現れる実験での計測の可否を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な研究費としては、直接透過率測定を行う際に使用する標準光源(昨年度使用したものと同じ)を購入する予定である。これは光源の寿命によるものであり、本研究課題で扱う手法で得た、透過率との比較のために不可欠である。また標準光源は非常に高温であるため、光源を取り付ける治具の改造を行う必要がある。出張は国際会議1件(研究発表)、国内会議1件(研究発表)、東京大学と核融合科学研究所への出張をそれぞれ1週間×2回程度を予定している。また、平成23年度での未使用分を含めた残りの研究費は、平成24年度の実験環境を改善させるための消耗品(電子回路部品、レーザーミラー等の光学部品)購入に充てる予定である。
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