本研究の目的は、核融合プラズマでのトムソン散乱計測において、集光系光学部品の放射線による効率変化に影響されない電子温度計測手法と、その手法を含んだその場相対較正法の実証することである。本手法は計測レーザーをプラズマ中に二往復させ、計二回の散乱信号の比を評価し、透過率とは独立に電子温度と相対的な透過率を求める。実証実験は東京大学のTST-2球状トカマク装置で行い、高性能なプラズマを有する計測に対しては、理論的な検討を行うことを研究実施計画の主眼とした。 実証実験では、100-400eVの電子温度領域で、本手法で求めた電子温度は、通常の手法により決定したもの(予め較正済みの透過率情報を用いた)と一致することを明らかにした(7%程度の精度)。各分光チャネルの相対的な透過率についても予め計測した真値と比べ5%程度の精度で求まることを示した。また、最終年度では散乱角が異なる場合についても本手法を試行した。散乱角が約109度の場合、散乱光スペクトル波形の影響で、電子温度の計測誤差がプラズマ中心計測(散乱角約122度)に比べ数倍程度上昇することが明らかになった。計測光子数を模擬し、精度を見積もった理論検討では、110度以下になると急激に誤差が上昇してしまう結果を得ており、実験結果との定性的な一致が確認できた。よって、放射線環境により透過率が変化した場合でも、散乱角110度以上であれば、実験装置本体にアクセスせずに電子温度と透過率が計測可能であることを実験と理論の両面から示した。 また、電磁波による加熱やプラズマ中の磁場の非対称性が強い場合、電子温度の磁場方向に対する非等方様性を生じ易い。磁場に対し平行成分と垂直成分の電子温度の両方を未知変数とし、実験で得られる信号と比較することで、強い非等方性(3倍程度)を持たない限りそれらを求めることが可能であることをシミュレーションによって明らかにした。
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