本研究は、高濃度電解質溶液である含水溶融塩中に溶存したアクチニル錯体の化学状態をラマン分光分析法を用いて明らかにすることを目的としている。これまでに調製してきたウラン試料(塩酸溶液、含水アルカリ塩化物溶融体(LiCl、NaCl、KCl、RbCl、及びCsCl)、含水アルカリ土類塩化物溶融体(MgCl2、CaCl2、SrCl2、及びBaCl2))について、詳細なラマン分光分析を行った。波数849~872cm-1 に観測されるO=U=Oの対称伸縮運動(ν1モード)のラマンピークについて、半値幅と溶媒の関係を評価した。溶媒中の塩化物イオン濃度(重量モル濃度)が増加するにつれて半値幅が増加することが明らかになった。ウラニルの赤道面に配位する塩化物イオンの個数の異なる錯体が共存していること、すなわち、塩化物イオン濃度の増加に従い、赤道面の水和水が塩化物イオンに置換されていることが明らかになった。半値幅はラマンシフトの波数が減少するにつれて増加した。ラマンシフトの波数の減少も水和水が塩化物イオンに置換されていることを示すため、半値幅の解析は溶存状態の解析に有効であることが明らかになった。ネプツニウムを含有する含水塩化カルシウム溶融体を調製し、ラマン分光分析を行った。5価と6価のネプツニウムに関するラマンスペクトルを取得した。ラマンシフトが示すネプツニルの溶存状態は、ウラニルから推測される塩化物イオンが配位した溶存状態に近いことが明らかになった。分子軌道計算については、密度汎関数法の計算手法を再検討し、ウラニル及びネプツニルの赤道面に塩化物イオンが配位した際の錯イオンについて計算を行い、イルイオンの全対称振動エネルギーを計算したところ水和錯体よりも小さな値を示した。
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