研究課題/領域番号 |
23760830
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
宮下 直 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 博士研究員 (70553551)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 放射化学 / 溶液化学 / 溶媒抽出 / マイナーアクチノイド / ランタノイド / ホスフィン |
研究概要 |
平成23年度は溶媒抽出法によるAmとCmの相互分離を目的とし、リン系配位子を抽出剤としたAmとCmの溶媒抽出の検討を行った。リン系単座配位子であるトリフェニルホスフィン(TPP)、リン系二座キレート配位子であるジフェニルホスフィノメタン(DPPM)、ジフェニルホスフィノエタン(DPPE)、ジフェニルホスフィノプロパン(DPPP)の3種類のジホスフィンを抽出剤として用いたマイナーアクチノイド(MA:Am、Cm)およびランタノイド(Ln)の溶媒抽出を行った。単座配位子であるTPPを用いた場合、MAの方がLnに比べわずかに高い分配比を示したが、分離能は低く、抽出能も低いことが分かった。二座キレート配位子の3種類のジホスフィンを抽出剤として用いた場合、分配比はDPPM > DPPP > DPPEの順に高くなり、キレート配位子の方がより単座配位子に比べ安定な錯体を形成し、4員環キレートが最も安定であることが分かった。また、全ての抽出剤においてMAの方が Lnに比べ分配比が高く、リン系配位子がMAに対する選択性があり、LnとMAの分離に対し有効な抽出剤であることがわかった。DPPM、DPPE、DPPPを用いた溶媒抽出におけるランタノイドの分配パターンを比較した結果、ジホスフィンと金属イオンの間に形成されるキレート構造の違いがLnに対する選択性に影響することが示唆された。また、用いた全ての抽出剤においてAmとCmの分離係数は1から2程度でありMAの相互分離には適していないことが分かった。以上の結果から、ほとんど知られていないリン系配位子を用いたMAとLnの抽出および基本的な構造と抽出・分離能の関係に関する新たな知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が「やや遅れている」と評価する最も大きな理由は、平成23年3月に起きた東北地方太平洋沖地震の影響である。地震により研究を行う施設が被災し、実験環境に多大な被害が出た。この修復に多くの時間を要したため、平成23年度の研究計画全体が遅れていると考えられる。平成23年度の研究計画は1:単座配位子による抽出と置換基効果の検討、2:多座配位子による抽出の検討、3:Tunable diphosphines (Tunephos)の合成である。1に関しては単座配位子であるTPPによる抽出は行ったが、その他の置換基を持つリン系単座配位子は大気中の酸素や水溶液中の酸などによる酸化の影響が大きく実験を行うことが困難であることが確認された。2については二座キレート配位子に関しては基本的な知見を得た。しかし、その他の多座配位子に関しては抽出が可能であることを確認するに留まっている。3については配位挟角が制御可能なCn-TunePhosを合成するための費用が計画していた予算を超過したため、合成の計画を変更した。そのため平成23年度には Cn-TunePhosを合成するために合成中間体である6,6-dihydroxylbiphenyl-2,2'-diyl- bis(diphenylphosphine)のみを合成した。以上、研究の進展状況は地震の影響、計画予算の超過、研究計画の一部変更などの理由から「やや遅れている」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の計画は1:配位挟角既知のリン系配位子による溶媒抽出、2:Cn-TunePhos およびその誘導体を用いた溶媒抽出である。1については(1)配位挟角既知のリン系二座キレート配位子、(2)構造が制限されたリン系 二座キレート配位子、(3)三座および四座のリン系配位子を用いてマイナーアクチノイドおよびランタノイドの溶媒抽出を行い、リン系配位子の構造と抽出・分離能の関係をより詳細に調べる。2についてはこれまでに合成したTunePhos合成中間体から2種類のCn-TunePhosを合成し、市販されているC3-TunePhosと合わせて3種類のTunePhospを用いてランタノイドおよびマイナーアクチノイドの溶媒抽出を行い、1の結果との比較から配位狭角と抽出・分離能の関係を評価する。TunePhos誘導体に関しては、試薬の酸化に対する不安定性および予算の都合から研究計画から変更・除外する。以上の研究推進方策に基づいて、リン系配位子を用いたマイナーアクチノイドおよびランタノイドの溶媒抽出における配位子の構造と抽出・分離能との関係の基礎的な知見を得ることを目的に研究を推進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費の主な使用目的はCnTunePhosの合成である。配位挟角が制御可能なCn-TunePhosを合成するための費用が計画していた予算を超過したため、合成の計画を変更した。そのため平成23年度には Cn-TunePhosを合成するために合成中間体である(6,6-dihydroxylbiphenyl-2,2'-dyil)-bis(diphenylphosphine)のみを合成した。平成24年度は前年度と今年度の予算を合わせ、その約7割(1500,000)を合成中間体から目的であるCnーTunePhosを2種類を合成するために使用する予定である。残りは実験のための消耗品および論文投稿などに当てることを計画している。
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