研究概要 |
集光強度が約10の19乗W/平方センチメートルの高強度レーザーを薄膜に照射することによって発生した高線量率のMeVエネルギー陽子線をヒトがん細胞に照射し、放射線生物応答を実験的に評価した結果、1平方ミリ当たりの陽子密度が7.2×10の4乗、線量率に換算すると1×10の7乗Gyまで上昇しても、細胞生存率に関する生物学的効果比(RBE)の値を変化させるような高線量率効果は発生しないことを確かめた。これはレーザー駆動陽子線は加速器ビームと同等の生物効果を有していることを示唆する結果であり、将来的ながん治療への応用へ向けた成果として重要な知見である。以上の成果をまとめ、論文「レーザー駆動陽子線の生物照射効果」レーザー学会誌「レーザー研究」40, 842 (2012)、国際会議(25th International Conference on Atomic Collisions in Solids)における口頭発表"Radiobiology with Laser-accelerated Proton Beams"として発表した。 また、発生する陽子線の高エネルギー化には、使用する高強度レーザー装置の性能が大きく影響する。そこで、本機構の所有する10TWレーザー装置のパルス時間波形に関する性能を向上させる取り組みを行った。その結果、従来はレーザー主パルスの100-500 ps前の領域に、10の-7乗レベルの背景光が生じているが、今回の改良で背景光を10の-10乗レベルに低減することができた。この成果を「レーザー駆動イオン加速のための10TW級高コントラストレーザーの開発」としてレーザー学会学術講演会第33 回年次大会において発表した。
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