研究概要 |
セシウムを高選択的に取り込む捕集剤を開発するためには、セシウムの取り込みが確認されているプルシアンブルーのように、高秩序で交換可能なカウンターカチオンを内包した比較的小さな細孔を持つ化合物を、比較的安価で安定な材料をもとに作ることが重要である。 我々は、安価で安定な配位子であるシュウ酸を用い、上記条件をすべて満たす新規配位高分子(MOF:metal-organic framework)であるRe(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Gd, Dy, Er, Ho, Er, Yb)及びReCs(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Eu, Tb, Dy, Er)の合成に成功した。これらの化合物は、元素分析及び単結晶X線構造解析または粉末X線によって同定された。 また、Re(NH4)(C2O4)2・H2O の錯体をそれぞれCs+を含む水溶液中に浸透させたところ、溶液中のCs+濃度測定や、MOFの元素分析から、これらのMOFはCs+を取り込むことを明らかにした。また、同様の実験から、海水程度のナトリウム塩濃度の水溶液中からもCs+の取り込みが可能であることを明らかにした。これはMOFを使って、Cs+を選択的に取り込む初めての例であり、セシウムで汚染された海水など塩濃度の高い対象物から、セシウムを除染できる可能性を示すデータである。 また、希土類金属は原子番号が大きくなるほどイオン半径が小さくなるため、構造解析と粉末X線測定から、Re(NH4)(C2O4)2・H2Oは原子番号の大きな希土類ほど小さな細孔をもつことを明らかにした。 これをもとに、それぞれでの細孔径でのセシウムの取り込み挙動を探索し、細孔径が大きいほどCs+を取り込む速度が速いことを明らかにした。これはMOFの細孔サイズとイオンの取り込みの関係性を示した初めてのデータである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細孔サイズと取り込める水和イオン半径及びCs+選択性の関係を明らかにするためには、細孔の形状を大きく変化させずに、細孔サイズの異なるMOFを数多く合成し、Cs+の取り込み挙動を比較検討する必要がある。平成23年度は希土類金属を用いてCs+イオンの取り込みが可能な新規MOF(Re(NH4)(C2O4)2・H2O (Re = Y, Sm, Gd, Dy, Er, Ho, Er, Yb))をすでに8種類合成することに成功しており、これらの構造は同型であるため、Cs+の取り込み挙動を比較検討しやすいと考えられる。 このように希土類金属を用いて同型の化合物を作ることに成功したことで、当初はセシウムを取り込める新規MOFについて、1種類ずつ取り込み挙動を調べる計画であり、セシウムを取り込めるMOFが見いだせない場合も想定して実験計画を立てていたが、当初予定していたより多くのセシウムを取り込めるMOFを平成23年度に合成し、構造解析することに成功した。そのため、平成23年度合成用備品類のための物品費や、合成・同定用の装置を借りるための出張費用などが削減された。 セシウム取り込み挙動の解明については、合成数が多いためにデータ数が増え、セシウムの取り込み挙動をまとめることに計画以上の費用と時間を要すと考えられるが、平成23年度に合成したMOFだけでも、細孔サイズと水和イオン半径及びCs+選択性の関係を明らかにできる可能性が高く、自己点検による評価としては順調に研究が進んでいる。
|