単結晶サファイアに炭素を添加した試料の極めて高感度な輝尽発光(Photostimulated luminescence; PSL)特性に着目し、1個のイオンの入射に対して充分な発光強度を有する単結晶試料の開発と、発光検出装置を組み合わせたリアルタイム照射位置検出システムの開発を目的とした。 まず、高感度CCDカメラ、ズームマイクロスコープなどで構築した発光検出装置の動作試験を行うために、ビームモニタに利用される直径数ミクロンのZnS粒子を焼結させたシンチレータに、15 MeV 酸素イオンを照射量を変えて照射した。その結果、1秒間に数個のイオンの照射によって誘起されたイオンルミネッセンス(Ion Luminescence;IL)を検出できる性能を確認した。 PSLの強度は、ILやフォトルミネッセンス(Photoluminescence; PL)などの電子励起を利用した発光と相関がある。このことから研究を効率良く進めるために、PSLが期待される単結晶サファイアにEuを注入した試料(Al2O3:Eu)の評価には、オフラインで実験可能なPL測定を利用した。最も強いPL強度は、試料の表面から30 nm ~ 70 nmの範囲に、1立方ナノメートル当たり7.5個を注入して、600℃で30分間熱処理した試料から得られた。またIL検出実験では、最も強いPLが得られた試料に15 MeV 酸素イオンを1秒間に200個の照射した際に、ILを約20個捕えることができた。 本研究では、イオン注入によって製作した単結晶試料からの輝尽発光の検出には至らなかった。しかし、IL検出については熱処理などの調整により10倍以上の強度の向上は必要であるが、シングルイオンヒットをリアルタイムで検出する高感度な位置検出システムの実現に目途が付いた。
|