研究課題/領域番号 |
23760841
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古林 敬顕 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40551528)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バイオマスエネルギー / エネルギーシステム / 国際輸送 / 木質バイオマス / 農業バイオマス / 輸送問題 / 線形最適化 / バイオ燃料 |
研究概要 |
本研究では、地域特性を考慮した多国間の国際供給によるバイオマス利活用システムを設計す ることを目的とする。複数のバイオマス資源とエネルギー変換技術を同時に扱い、安価で豊富なバイオマス資源の賦存量を持つ開発途上国から、需要量が多い日本に国際供給を行うことを想定し、温室効果ガス削減効果、エネルギー収支、コスト、マテリアルフローを定量的に評価する。対象国におけるバイオマス資源や地理情報のデータベース化、国際供給を考慮したエネルギーシステムの設計、最適化手法による解析、エネルギー経済モデルによる長期予測を段階的に行う。 当該年度では、マレーシアに大量に賦存するオイルパーム残渣 (EFB) を対象資源、マレーシアのボルネオ島を対象地域として、道路状況及びパームオイル工場の規模と立地、港の位置のデータベースを作成した。作成したデータベースを基に、地理情報システム Arc GIS を用いて、パームオイル工場からEFB加工工場、港までEFBを運搬するための輸送経路を最適化し、コストとエネルギー消費量を明らかにした。 また、東南アジアに賦存するバイオマス資源の中には、オンサイト利用が適しているバイオマス資源が存在する。例として、タイを対象地域とした、有機物を含む廃水の処理におけるバイオガス回収利用システムを設計した。国際輸送を行わない場合のメリットとして、クリーン開発メカニズム (CDM) を考慮した温室効果ガス削減量及び経済性を評価した。 熱力学、システム工学、経済学に基づいたバイオマスエネルギーシステムの設計研究は国内では例がなく、地域特性を考慮した資源と技術の最適な組み合わせが明らかとなった。得られた成果を日本エネルギー学会主催のバイオマス科学会議及びThe 8th Biomass Asia Workshopで発表し、上記を含めたこれまでの成果が、日本エネルギー学会誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、次のように段階的に行う。(1)対象国のバイオマス資源の賦存量をデータベース化する。(2)対象国の道路状況や農地等に関する地理情報をデータベース化する。(3)加工工場の立地条件を考慮し、対象国における収集・運搬を最適化する。(4)複数の国、資源を対象としたバイオマス利活用システムの数理モデルを設計する。(5)線形計画法により、最適な供給国、資源、技術の組み合わせを明らかにする。(6)エネルギー経済モデルを持ちいたシナリオ解析により、長期的な需要と供給の動向を示す。 当該年度では、タイとマレーシアについて、上記の(1)から(3)まで行った。 マレーシアを対象としたシステムでは、パームオイル製造過程で大量に廃棄されるオイルパーム残渣 (EFB) を対象資源、ボルネオ島を対象地域として、EFBを対象地域で燃料に加工し、国際輸送を経て石炭火力発電所で混焼するバイオマス利活用システムを設計した。燃料製造技術として炭化、ペレット化を考慮し、加工工場を分散させるケースと集約するケースとに分けて解析した。 また、国際輸送をしないオンサイト利用のケーススタディとして、タイの農村部を対象地域、廃棄物系バイオマスである有機廃水を対象資源として、クリーン開発メカニズム (CDM) を考慮したバイオガス回収利用システムを設計した。CDMによって得られる温室効果ガス排出権 (CER) を考慮し、国際供給によって得られる温室効果ガス削減量と比較した。 以上、当該年度の研究は、データベースの作成に関しては当初の予定よりも遅れているが、バイオマス利活用システムの設計に関しては当初の予定よりも進んでいるため、総合的にはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
対象国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、中国)の農地、工場、道路網等の地理情報だけでなく、燃料製造技術及びエネルギー変換技術のデータベースを作成する。燃料製造技術として、固形燃料製造(ペレット、チップ、ブリケット、炭化物、乾燥燃料)、液体燃料製造(バイオエタノール、バイオディーゼル)、気体燃料製造(バイオガス)を考慮する。得られたバイオ燃料は、エネルギー変換技術の燃料として、専焼及び混焼を想定した電力と、自動車の動力源として利用することを想定する。複数の国、資源、燃料製造技術、エネルギー変換技術を考慮したバイオマス利活用システムを設計し、資源の収集・運搬、加工、国内輸送、国際輸送、消費の各プロセスにおけるエネルギーバランス、温室効果ガス排出量、経済性を定量評価する。 また、温室効果ガス削減量の最大化、コストの最小化、開発途上国の経済波及効果の最大化等を目的関数として、線形計画法を用いて最適解を導出する。 さらに、資源の供給量、エネルギー需要量、化石燃料の価格等の変化を考慮するため、技術習熟を内生化した非線形エネルギー経済モデルを用いて長期間のシナリオ解析を行う。得られた結果より、バイオマスのエネルギー利用に求められる条件を明らかにする。 研究を遂行する上での課題として、データの不確実性が挙げられる。本研究で対象としているのはおもに開発途上国であり、農作物及び林地の統計資料や、詳細な道路網の情報が存在しない、あるいは非公開となっている国あるいは地域がある。しかし、本研究の目的は、地域特性を考慮した多国間の国際供給によるバイオマス利活用システムを設計することであるため、既にデータベース化することができた国及び地域を対象としてシステムを設計する。他の国は、信頼のおけるデータを得ることができ、不確定要素を除外できた場合に考慮する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、バイオマス利活用システムの設計研究に不可欠な資料、フィールド調査で使用する計測機器、設計した数理モデルを用いた解析を行うための計算機とソフトウェアを購入し、物品費として約53万円を計上した。国内でバイオマス資源が利用されている現状を視察するためのフィールド調査、海外のバイオマス資源の利用の現状に関する知見を得るためのフィールド調査、他の研究者との議論を深めるための研究成果発表のため、約68万円の旅費を計上した。その他の費用として、学会参加費で約8万円を計上した。 次年度では、当該年度に行った文献調査及び現地調査で集めることができなかった国、地域のデータ収集を引き続き行う。そのため、物品費として文献やデータの購入費、旅費として現地への渡航費、学会の国際会議への渡航費、その他として学会の参加費を計上する。 物品費として、設備備品を購入する予定はない。消耗品は、研究グループが保有するArc GIS Network Analyst のアカデミックライセンス更新費として12万円、GIS用アジア地域情報データ集の購入費として20万円、エネルギー国際データベース Source OECD/IEAのアクセス費として10万円、計42万円を予定している。 旅費として、国内のフィールド調査と研究成果発表の旅費として20万円、海外のフィールド調査と研究成果発表の渡航費として30万円、計50万円を予定している。 その他の費用として、研究成果発表のための学会参加費として8万円を予定している。
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