研究課題/領域番号 |
23760841
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古林 敬顕 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40551528)
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キーワード | バイオマス / エネルギーシステム / 最適設計 / 低炭素社会 |
研究概要 |
本研究では、地域特性を考慮した多国間の国際供給によるバイオマス利活用システムを設計することを目的とする。複数のバイオマス資源とエネルギー変換技術を同時に扱い、安価で豊富なバイオマス資源の賦存量を持つ開発途上国から、需要量が多い日本に国際供給を行うことを想定し、温室効果ガス削減効果、エネルギー収支、コスト、マテリアルフローを定量的に評価する。 当該年度では、新たに栽培、伐採する一次資源と、副産物や廃棄物等の二次資源に分類し、それぞれに対するシステム境界を定めることで、様々な資源に応用可能な設計手法を構築した。様々な資源を対象とするシステムの設計研究では、システム境界の設定が重要となる。新たに栽培または伐採される資源と、他の産業から発生する副産物や廃棄物では、資源の収集までのプロセスが著しく異なる。しかし、国内のバイオマス利活用システムに関する研究の多くは、対象とする資源や技術ごとに境界を定めており、包括的な設計手法は構築されておらず、本研究の成果はバイオマスエネルギーシステムの設計研究として非常に重要な意義を持つ。 また、東北地方を対象地域、遊休農地で栽培される国内資源を対象資源として、バイオエタノールを製造することを想定したシステムを設計、解析した。ArcGISによる輸送経路の最適化及び混合整数計画法を用いた施設配置問題の最適化を行い、バイオエタノールの製造コスト、製造に伴う温室効果ガス排出量、エネルギー収支を定量的に評価した。さらに、国内資源だけではなく、海外資源を輸入、利用することを想定した解析を行い、国内資源のみを利用する場合に比べて、施設配置や規模、エネルギー収支、製造コスト、温室効果ガス排出量がどのように変化するのかを明らかにした。 得られた成果を、20th EU BC&Eや日本エネルギー学会バイオマス科学会議で発表し、日本エネルギー学会に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、次のように段階的に行う。(1)対象国のバイオマス資源の賦存量をデータベース化する。(2)対象国の道路状況や農地等に関する地理情報をデータベース化する。(3)加工工場の立地条件を考慮し、対象国における収集・運搬を最適化する。(4)複数の国、資源を対象としたバイオマス利活用システムの数理モデルを設計する。(5)線形計画法により、最適な供給国、資源、技術の組み合わせを明らかにする。(6)エネルギー経済モデルを用いたシナリオ解析により、長期的な需要と供給の動向を示す。 当該年度では、上記の(4)及び(5)を行った。 資源を発生プロセスごとに一次資源と二次資源に分類し、それぞれに対してシステム境界を定め、様々な資源を対象とするシステムを評価することができる設計手法を構築した。この手法を用いることで、これまで明確ではなかったシステム境界を客観的に定めることができるため、複数の資源を同一の評価基軸で扱うことができる。 東北地方を対象として、国内資源の栽培及び海外資源の輸入を考慮し、バイオエタノールを製造するために最適な作物種、施設配置及び規模、輸送経路等を明らかにした。得られた結果より、バイオエタノールの製造コスト、エネルギー収支、温室効果ガス排出量を定量的に評価した。 以上、当該年度の研究は、(5)の複数の技術を扱う段階には至っていないが、(4)の数理モデルの設計研究が当初の予定よりも進んでいるため、総合的にはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度は、データベースの作成を継続するとともに、エネルギー経済モデルを用いたシナリオ解析により、長期的な需要と供給の動向を示す。需要として電気、熱、自動車用燃料を想定し、供給として国内外の草本系及び木質系、廃棄物系の各種バイオマス資源を想定する。技術として、直接燃焼やガス化発電等のようなエネルギー変換技術と、ペレット化やバイオエタノール等の燃料を製造する前処理技術とに分類し、前処理技術はさらに様々なエネルギー変換技術と組み合わせる。おもな一次エネルギー供給が化石燃料である既存のエネルギーシステムに、国内外の種々のバイオマス資源及びバイオマス利用技術を組み合わせることで、2050年までの一次エネルギーの資源構成、エネルギー供給コスト、温室効果ガス排出量がどのように変化するのかを明らかにする。また、温室効果ガス排出量の制約、化石燃料の価格高騰等の社会的要因が与える影響を定量的に評価する。 研究を遂行する上での課題として、エネルギー経済モデルでは地理情報を考慮することができない点が挙げられる。バイオマス資源をエネルギー利用する場合、資源の収集、輸送に伴うエネルギー消費量、コスト、温室効果ガス排出量を評価するためには、地理情報は不可欠である。本研究では、これまでに得られた研究成果から、対象とする資源と技術の組み合わせから、収集、輸送に伴うエネルギー消費量、施設の規模等の代表的な値を選び、エネルギー経済モデルの入力値として用いる。さらに、各パラメータの上限値と下限値を考慮した感度解析を行い、入力値が変化することで結果にどのような影響を与えるのかを定量的に示す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額20,307円が生じているが、3月までに執行済みの4月支払分であるため、次年度での使用予定はない。
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