自然界や作物には倍数性の植物が多い。倍数性は動物や菌類ではゲノムの不安定性をもたらすことが明らかになっているが、植物で倍数性が多いことは、植物においては独自の倍数性ゲノム維持機構が存在すると予想される。本研究はシロイヌナズナの四倍体植物が通常の二倍体植物に比べてDNA損傷に強くなるメカニズムを理解することを目的とし、これまでに同定されているゲノム維持機構に関わる因子の変異体から四倍体を作製し、二倍体と比べてDNA損傷に抵抗性を示さない変異体を探索した。その結果、相同組換え修復に関わるRAD51遺伝子群の変異体では、四倍体におけるDNA損傷抵抗性が見られなかった。この結果は、四倍体植物がDNA損傷抵抗性を示すのに、相同組換え機構が必要であることを示している。四倍体では相同組換え機構が活性化されることにより、DNA損傷抵抗性が獲得されるかどうかを調べるために、相同組換えレポーターを用いた解析を行った。相同組換えレポーターは、タンデムに並んだ2つのオーバーラップするGUSレポーター遺伝子間で組換えが起きるとGUS遺伝子が発現することを利用して、植物体で相同組換え率を測定することができる。DNAダメージ存在下で相同組換えレポーターアッセイを行った結果、予想に反して、四倍体では二倍体に比べて組換率が低下していた。四倍体においては相同染色体の数が増えているので、相同染色体間の組換えが効率的に起きる可能性が示唆されたので、相同染色体間の組換えを直接解析する必要性がある。現在は染色体の特異的な座位にDNA鎖切断を導入する系を用いて相同染色体間の組換えを直接解析する実験を立ち上げており、二倍体と四倍体での差を解析する計画である。
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