研究課題/領域番号 |
23770020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塩尻 かおり 京都大学, 白眉センター, 助教 (10591208)
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キーワード | 国際情報交換(アメリカ合衆国) |
研究概要 |
植物の匂いを介したコミュニケーションは、傷をうけた植物の匂いを隣接する個体受容すると、健全であるにもかかわらず誘導反応を発現し害虫に対する抵抗性をもつ現象をいう。この現象は、生態系における多様な生物の共存を可能にする一つの維持機構であると考えられ注目されているが、植物にとってコミュニケーションすることの包括的適応度や、コミュニケーションという現象の一般性は明らかになっていない。そこで、本研究では1)植物コミュニケーションの適応的意義について、血縁選択、誘導反応のコストとベネフィットの視点から包括的に解明すること、2)植物コミュニケーションの一般性を明らかにすることを目的としている。 1)において24年度の計画では、血縁関係とコミュニケーション、形質の個体変異、誘導反応のコスト、季節とコミュニケーションの関係の4つをサブテーマにあげていた。血縁関係においては昨年度に引き続き、セージブラシとセイタカアワダチソウを用いて昨年度と同様の実験設定で、野外実験をおこなった。両種とも、血縁度が高い個体の匂いを受容したほど抵抗性を高くもった。この結果は昨年度と同様であり、植物が匂いで血縁を識別できることを明らかにした。誘導反応のコストにおいては過去10年間の結果をまとめ報告した。形質の個体変異、季節性については次年度も引き続き研究を行う。 2)において24年度の計画では、可能な限り多くの種をもちいた野外検証、匂い成分の分析を上げていた。本年度は8種の植物を用いて操作実験をおこなった。その結果、1種を除いては匂いを介した植物間コミュニケーションを行っていることが明らかになった。匂い分析においては、ノイズが多く分析が上手くいかなかったので次年度に行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、昨年度までに目的1)植物間コミュニケーションの適応的意義の解明において、匂いを介したコミュニケーションによる誘導反応のコストとベネフィットを明らかにし、また、血縁関係とコミュニケーションにおいても昨年度に引き続き、血縁度が高いほど抵抗性を誘導しやすいという結果を得られた。これらは、適応的意義を考える上で重要な結果である。 目的2)植物間コミュニケーションの一般性の解明においても、昨年度だけでも8種類もの野生個体群をつかって実証研究をできたことは評価できる。しかし、匂い捕集に失敗したので、次年度に匂い成分を明らかにしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
①コミュニケーションと季節性を明らかにする。特にセージブラシ、セイタカアワダチソウを用いて、匂い受容した時期の違いと植物の成長率(種子生産率)を調べ、植物が効率的にコミュニケーションを行っているかを検討する。 ②コミュニケーションの一般性の解明として、引き続き、群落で生育する野生植物において匂いを介したコミュニケーション能力があるか否か明らかにしていく。 ③野外実証に用いた植物種を対象に、匂い成分を分析する。そして、コミュニケーションする種に共通する成分の有無を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度にひきつづき、実験補助員として研究員を一人雇用する。また、匂い捕集分析のために捕集剤を購入する。また、論文作成のために、英文校閲費として使用する。 その他は、調査旅行費、学会旅費として使用する。
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