ほとんどの生物は相利共生している。生物はいかにして異種との初遭遇に迅速に適応し、共生を成立させるのか?既に成立した天然の共生成立は観測できないため、その適応には不明な点が多い。これまでに私達は、2種の大腸菌により人工的に初遭遇を模倣することで、表現型可塑性による迅速な適応が共生成立に寄与しうることを示した。具体的には、2種を混合すると、一方の栄養供給(ここでの協力的行為)が劇的に増加し、両者が継続的に増殖した(共生成立)。この系は単純な実験系であり、表現型可塑性の寄与を示すだけでなく、その分子機構解明にも適している。本研究では、この共生成立に寄与する表現型可塑性の分子機構解明を試みる。 2種大腸菌の細胞内状態を調べるために、共培養からそれぞれの株を分取し、全遺伝子発現量および細胞外環境中の生化学物質の定量を行った。結果、この表現型可塑性を生化学反応のレベルで説明する仮説を導き、実験的に裏付けることができた。具体的には、2種の大腸菌が細胞外を通して、一つのアミノ酸の合成経路を完成させており、代謝中間体の授受によりそのアミノ酸供給が増加するということが示唆された。さらに、化学合成した代謝中間体を加えて、アミノ酸供給量の測定などの実験を行うことで、この仮説を実験的にサポートした。このように目的は達成された。さらにより一歩進めて、この迅速な適応により共生が成立した後の、進化による適応も実験室内進化によって調べた。これらの結果は著名な国際会議で表彰され、学術論文作成中である。 自然界には多種多様な生物が存在し、互いに遭遇することで共生成立の機会を持つ。この共生成立に寄与する表現型可塑性の分子機構の概要を、初めて実験的に示すことができた。さらにこの進化についても重要な結果が得られた。人工的であり一例であるが、大きな意義があり、今後一般化にも繋がるだろう。
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