研究課題/領域番号 |
23770022
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
乾 陽子 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (10343261)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | マレーシア / ボルネオ島 / 低地フタバガキ林 / アリ植物 / 好蟻性昆虫 / 体表炭化水素 / 化学偽装 |
研究概要 |
調査地であるボルネオ島の熱帯雨林地域に赴き、主にウラボウシ科着生シダ類の採集と内部に営巣するアリ類や好蟻性昆虫の調査を行なった。本課題では、着生シダ類にのみ生息する好蟻性ゴキブリについて、アリコロニーに侵入する化学的な手段として、アリの化学物質を真似るよりもむしろ、自身の化学物質を’押し付け’して共棲を可能にしていると仮説を立てている。今回の採集では他の研究者らと協働して、より大型の着生シダとアリコロニーの採集に成功したので、その中からは、少数派の好蟻性の甲虫類も多数見つかった。その体表成分を分析した結果、これらの昆虫にまでも、ゴキブリ由来の体表成分が似た組成で付着していることが明らかにできた。この事実は、着生シダ内部のコロニーの化学的プロフィールをゴキブリが決定づけているという仮説を支持する。また、ケミカルバイオアッセイを行うための基質選定の予備的行動実験も行った。その結果、これまで良く使われるガラス製の基質でなく、木片などのほうがアリに対して無用な攻撃性を惹起せず、使いやすいことがわかった。今後は溶媒洗浄した木片でアリの攻撃を誘発または宥和する成分の特定を行っていく。マカランガ属アリ植物に発生する好蟻性シジミチョウについては、野外密度の低下や時間的な制約から、サンプル数の増大ははかれなかったが、分析の分子量レンジを拡大して再分析したところ、炭素鎖の数が40を超える高沸点域の成分はないことが確認された。好蟻性シジミの一部では、体表炭化水素を全く持たない種が居るとの仮説を立てているが、アリ類と同じ炭素鎖23-32以外の沸点域にも特徴的な成分を持たないことが確認されたので、シジミチョウでは化学的に「隠身」するという偽装法がある可能性がさらに高くなったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に行う予定としていた、ゴキブリ由来の成分を用いたケミカルバイオアッセイの確立に、おおむね目処が立った。それに加えて、コロニーのメンバー全体にゴキブリ由来成分が蔓延していることが新たに明らかにできた。ムラサキシジミのサンプルの増大ははかれなかったものの、これまでのサンプルの再分析をした結果は、当初の予想を支持するものであった。また、各シジミチョウ種が食草とできる種の範囲を特定するという基礎的なデータが協力者と共に取ることができ、この成果は学術誌に投稿ずみである。
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今後の研究の推進方策 |
国内の学会発表や研究集会の旅費を計上していたが、23年度は開催地がすべて近隣地域であったために、出張にかかる経費が見込みよりも少なくて済んだ。また分析機器のメンテナンス箇所が少なくて済んだ。これらのことから繰越金が発生したが、特に分析機器については、定期的なメンテナンスが必要であるので、今後の運転維持に充てる予定である。今後も調査地に赴き、24年度は主としてケミカルバイオアッセイを行う予定である。体表成分のみのサンプルを用意し、各種の成分に対するアリ類の攻撃行動を評価する。これにより、好蟻性昆虫の化学的な戦略が有効に機能しているかどうかを検証する。23年度の結果から、特に研究の遂行に問題となるのは、野外におけるシジミチョウ幼虫の密度に大きく左右される点であるといえる。シジミチョウの成分を用いたケミカルバイオアッセイは、本課題の実施計画では明確に行うこと書いておらず、あくまでも化学プロフィールを解析することで化学偽装法を明らかにするとしていた。これは、好蟻性ゴキブリほど十分な数を得られない可能性も考慮してのことであった。しかし、近年の化学生態学分野の動向を踏まえると、ケミカルバイオアッセイを行うことが望ましい。少数のデータでも複数年にわたって集め、バイオアッセイを試みつつ、化学分析のデータの補強を図り、偽装法を明確に示すようにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査地であるボルネオ島へ、1~2回の述べ3週間~4週間程度赴き、生きた生物を用いた調査や実験を行うため、国外旅費を必要とする。また、これに伴い野外調査用具ならびに実験のためのガラス器具類や試薬類を購入する。国内では主として化学分析を行うので、分析機器の運転維持費用として使用する。具体的には、分離分析のカラム、機器のインレット、キャリアガス、ポンプメンテナンスなどである。国内旅費としては、主に国内での学会での成果発表を行い、また協力者との研究打ち合わせを少数回行う予定である。また、所属機関には質量分析計がないため、他機関の分析計を共同利用等で使用させてもらうため、一部の利用に関して機器の管理者の協力のもとに分析を行うので、謝金等を使用する。
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