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2012 年度 実施状況報告書

好蟻性昆虫がアリ社会に侵入するための多様な化学的戦略

研究課題

研究課題/領域番号 23770022
研究機関大阪教育大学

研究代表者

乾 陽子  大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (10343261)

キーワード東南アジア熱帯 / アリ植物 / 好蟻性 / 体表炭化水素 / 化学偽装
研究概要

研究対象の好蟻性昆虫として、好蟻性ゴキブリ1種と、好蟻性シジミチョウ幼虫3種を扱ってきたが、このうち、シジミチョウ3種については、同属内の近縁な種であるにもかかわらず、好蟻性の度合いや、宿主のアリと共棲するための化学的手段が、当初の予想よりも大きく異なる可能性がでてきた。
まず、従来の好蟻性昆虫類でよく知られてきた、宿主アリの体表炭化水素に非常によく類似した炭化水素をまとうことによる化学擬態を行っている種が1種いることが確認され、別の1種はアリ類とは似つかぬ炭化水素を有しており、残りの1種は炭化水素を欠落していた。
行動実験の結果は、こうした炭化水素の特徴を良く反映した結果となり、擬態種は宿主にのみ攻撃されにくく、顕著に興味を示され、アリと異なる炭化水素を持つ種はどのアリからもよく攻撃され、炭化水素を持たない種はどのアリからもよく無視された。
申請時に掲げた仮説のうち、最も新規性の高い「化学的隠身」ともいうべき戦略は、アリに気づかれにくいように、体表炭化水素群を持たない、というものであった。シジミチョウのうち1種は、実際に炭化水素群を欠落していることが判明したが、さらに、炭化水素ではない特異的かつ非常に珍しい体表成分を有することが明らかとなり、これが植物擬態を示唆する成分であった。
好蟻性昆虫において、このような化学的な偽装手段はいままでに知られていない。
今年度は、特にこの1種について宿主だけでなく多くのアリ種に非常に気づかれにくいという実験結果や、また非葉食性であることや好蟻器官を欠落しているといった観察事実から、好蟻性というよりは客蟻性の種であるとする論文を発表した。また、現在炭化水素の欠落についての論文を準備中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

好蟻性ゴキブリのサンプル量の増大は計画通り確保できた。
現在、好蟻性ゴキブリとその宿主アリの共通の体表炭化水素がゴキブリから由来するものであるという結果の論文を準備中である。
さらに、好蟻性シジミチョウの1種については、当初の仮説通り、炭化水素を欠落することによる「隠身」戦略を行っていることが示唆されただけでなく、それに加えて、炭化水素以外の成分、それも植物の葉面ワックスブルームに非常に近いと思われる成分をまとっていることが明らかになってきて、アリから「身を隠す」手段として植物を偽装している可能性がでてきた。これが示されれば、仮説が強力に支持される。
また、他のシジミチョウ種についても、化学的にアリを欺瞞する戦略が種間でバラエティに富むことが順調に示されている。

今後の研究の推進方策

特に、好蟻性シジミチョウの1種から見つかった新規成分の構造決定を優先させ、植物擬態の仮説を検証する。炭化水素などと異なり、これまでの分析方法では構造の決定に至らないため、サンプルの前処理を施したり、候補成分の標品の合成を行い、これを分析してスペクトル解析を行う。
また、これらの成分がアリにどのような行動を起こさせるかを確かめるため、単離した成分を用いたケミカルバイオアッセイを行う。なお、炭化水素のヘキサン粗抽出物を用いたアッセイ法はすでに確立したため、同様の手法で行うことができる。
さらに、別の1種(アリとは異なる炭化水素を有するシジミチョウ)についても、上述の種のような植物ワックス様の成分ではないものの、いくつかの比較的低沸点の成分で炭化水素以外のアルコール類を確認している。これらの成分が、アリの攻撃性を宥和する作用を有する可能性について検証する。
さらに、こうした化学的な戦略の種間の違いが、なぜ同属内の近縁種間で進化してきたかの手がかりとして、食性と共生細菌に注目しており、研究協力者と共同して生理的な種間の違いについて検証する。
好蟻性ゴキブリについては、ほぼサンプル数を充足できたため、成分の最終同定とデータ解析、論文執筆をすすめる。

次年度の研究費の使用計画

主に、バイオアッセイを行うことを目的として、調査地であるボルネオ島にのべ3~4週間赴き、実験を行う。これらに必要な国外旅費を使用し、ガラス器具類と試薬類を購入する。
また、サンプリング用具類も購入予定である。
化学分析については、標品の合成あるいは合成の外注を行い、ターゲット成分の絞り込みを行う。これに必要な試薬類・器具類を購入する。またマススペクトルライブラリの拡充を行う。
クロマトグラフの消耗部品、ガス、ポンプメンテナンスが必要である。なお、昨年より世界的にヘリウムガスの生産量が低下しており、現在供給量が大きく低下しており、価格の上昇が見られる。この傾向が続いた場合、分析のコストが大きくなる可能性があるので、分析用の使用計画を多めに見積もっておく予定であるが、それを超えるような場合には液体クロマトグラフへの切り替えを検討し、これについては研究協力者の元で分析を行う。
質量分析計の共同利用機器の利用や、液体クロマトグラフの利用については、他研究機関の機器を使用する場合が多いため、一部の利用に関して機器の管理者の協力のもとに分析を行うので謝金等を使用する。
その他に、国内の学会大会等で成果発表および研究打ち合わせのために国内旅費を使用し、また、論文の校閲などの諸費を使用する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2013

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Myrmecoxeny in Arhopala zylda (Lepidoptera, Lycaenidae) larvae feeding on Macaranga myrmecophytes2013

    • 著者名/発表者名
      Usun Shimizu-kaya, Tadahiro Okubo, Masaya Yago, Yoko Inui and Takao Itino
    • 雑誌名

      Entomological News

      巻: 123 ページ: in press

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Production of food bodies on the reproductive organs of myrmecophytic Macaranga species (Euphorbiaceae): effects on interactions with herbivores and pollinators.2013

    • 著者名/発表者名
      Eri Yamasaki, Yoko Inui, Shoko Sakai
    • 雑誌名

      Plant Species Biology

      巻: in press ページ: in press

    • 査読あり
  • [学会発表] 東南アジア熱帯でアリ植物を寄主とする シジミチョウの化学偽装2013

    • 著者名/発表者名
      乾陽子
    • 学会等名
      日本応用動物昆虫学会
    • 発表場所
      日本大学生物資源科学部
    • 年月日
      20130327-20130329

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公開日: 2014-07-24  

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