研究課題/領域番号 |
23770026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小野田 雄介 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70578864)
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キーワード | 生物多様性 / 形質 / 群集構造 / クライン / 種間変異 / 種内変異 / 森林 / 広域評価 |
研究概要 |
本研究では、日本全域に設置された55の森林プロットの毎木データをもとに、日本産主要樹種について、生活史戦略に密接に関係する形質データを収集し、形質の温度クラインとそのメカニズムを明らかにすることを目的にしている。2年目となった2012年度は、芦生、和歌山、鳥取大山、対馬を調査し、プロットに出現する全ての種の葉や材のサンプルを得た。別プロジェクトで活動している東北大の黒川紘子博士らのグループと連携協力して調査したため、当初の予定を上回る総計26プロットで302種(のべ2790個体)についてサンプルを得た。 これらのサンプルについて、葉については面積、重量、厚さ、含水率、強度を測定し、材に関しては材密度、含水率を測定し、ほぼ測定が完了している。また、より詳細な化学分析として、窒素、リン、細胞壁量などの測定が現在進行中である。得られた形質データを利用し、形質と温度や降水量と関係を解析し、いくつか興味深い傾向が発見されている。例えば、種内の形質の温度依存性は、群集レベルの形質の温度依存性に比べ小さいことが分かった。これはつまり、種内変異の幅が種の分布を規定する要因に繋がっている可能性を示唆する。 成果発表に関しては、植物の機能形質と生態系機能がどういう関係にあるかについて、共同研究者と共に総説を発表した。また形質と群集構造の関係についてや、遷移段階と共に森林の群集構造と機能的多様性がどう変化するかなどについて、学会発表を行った。また形質データは、相対成長式の高精度化にも応用され、学会で発表された。さらに国外の文献データを利用した形質の温度クラインの解析も行った。年平均気温の低下と共に落葉樹の葉の寿命は短くなり、常緑樹の葉の寿命は長くなるという興味深い現象について、生育期間の長さを考慮した最適葉寿命で、実際の現象が良く説明できることを証明した。この研究は権威のある国際誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
調査は予定通り進行している。乾燥機の故障によりサンプルを一部失うという不測の事態があったが、他の研究者との連携もあり、全体としては計画以上のスピードでサンプリングを行うことができた。 分析に関しては、実験補助を雇用しながら進めている。大量のサンプルがあるため、全体像を把握するためにはまだ多くの時間を要するが、着実に進行している。 比較的容易に得られるデータに関しては、既に、気候の関係、また群集構造との関係などについて解析を行い、成果を学会等で発表しており、着実に成果を上げつつある。また国外のデータを使った形質の温度クラインの解析により、葉寿命の温度依存性のメカニズムを明らかにすることができた。また形質データは当初予定していなかった相対成長式の高度化などの研究にも応用されており、当初の期待以上である。
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今後の研究の推進方策 |
この2年間で予定以上のデータ収集を行うことができた。ただし、一部機械の故障により、データ欠損しているサイトがあるので、そのデータの補充を行い、さらに網羅的な形質データベースを作成する。また、集積したサンプルについて、葉の窒素、リン、細胞壁などのより詳細な化学分析を行う。これらの分析は時間と費用がかかるため、反復を減らしたり、地域を絞って解析を行う。分析を進める一方、今後は、よりデータ解析に力を入れる。特に温度クラインを引き起こすメカニズムについてモデル化を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
和歌山、芦生などにある森林プロットを周り、データが不足している種の葉や材のサンプルを得る。特に、和歌山はコアサイトとして、形質データ拡充に務める。これらの調査のために、申請者と調査協力者の旅費が必要になる。 また大量に得られたサンプルを効率的に処理、分析するために、研究補助を雇い謝金を支払う。調査器具の補充や、化学分析のために試薬や実験器具等を購入する。 最終年度であるため論文発表や学会発表等の成果発表にも力を注ぎ、必要経費を支出する。
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