研究課題/領域番号 |
23770030
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
中下 留美子 独立行政法人森林総合研究所, 野生動物研究領域, 研究員 (00457839)
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キーワード | 窒素安定同位体比 / アミノ酸 / 野生動物 / 食性 / 血漿 / 代謝 |
研究概要 |
アミノ酸の窒素安定同位体比解析法は、水棲生物の食性や栄養段階を優れた精度で復元できる手段として、近年国内外の様々な研究分野で大きな注目を集めている。しかしこの手法が陸上動物に適用可能かどうかの知見は皆無であり、陸上生態系や水陸混合系の研究が著しく遅れている主因になっている。本研究では、信頼度の高い食生態情報を読み取ることを目指し、陸上生態系に適用可能なアミノ酸の窒素安定同位体比解析法を確立することを目的としている。 昨年度のツキノワグマ飼育個体による検証実験において、アミノ酸窒素安定同位体比解析法の陸上大型野生動物への適用可能性が見出されたことから、今年度は本手法を野生ツキノワグマへ適用し、その有用性を検証した。養魚場等の被害との関連が疑われたツキノワグマ野生個体と関連のないことが分かっている野生個体の血漿試料を用いて、アミノ酸窒素安定同位体比解析法の有用性について検証を行った結果、どの個体がどれだけ被害と関連していたかが明らかとなり、その有用性が確かめられた。 一方、代謝の違いがアミノ酸窒素同位体比に与える影響を調べるために、ツキノワグマ飼育個体の活動期と冬眠期の血漿および赤血球成分のアミノ酸窒素同位体比を調べたところ、冬眠期の赤血球成分からは正確な栄養段階の復元ができなかったが、血漿成分は活動期も冬眠期も代謝の違いの影響を受けずに正確な栄養段階を復元できることが分かった。その理由はまだ明らかではないが、アミノ酸窒素同位体比を用いて動物の食性解析を行う場合、赤血球成分よりも血漿成分を用いたほうが有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初の達成目標であった、アミノ酸窒素同位体比分析手法をツキノワグマ野生個体に適用し、その有用性を確認した。さらに、代謝の違いが動物組織のアミノ酸窒素安定同位体比に与える影響についても検討を行い、本手法を陸上大型野生動物への適用する際の注意点を明らかにした。以上のことから、本研究は予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度のツキノワグマ飼育個体による検証実験とH24年度のツキノワグマ野生個体による検証実験により、アミノ酸窒素安定同位体比解析法の陸上大型野生動物への適用可能性とその際の注意点が分かってきた。今後の研究では、引き続き野生個体への適用可能性を検討し、アミノ酸窒素安定同位体比解析法による、より正確な食性情報の復元法の確立を目指す。最終的には科学的・社会的価値のある野生動物の代表試料に用いて、信頼度の高い食生態情報の復元を試みる。得られた成果は結果を取りまとめ、国内外の学会や学術雑誌等で積極的に発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費1000千円の内訳として、物品費450千円、旅費400千円、人件費・謝金100千円、その他50千円を予定している。物品費の大半を占めるのが、安定同位体比分析に必要な消耗品類(カラムや燃焼炉、還元炉といった高額消耗品やガス類、試薬等)である。旅費は国際学会(国際哺乳類学会)および国内学会における研究成果の発表、試料収集のための経費を予定している。人件費・謝金については、試料収集や試料の分析前処理の補助に用いる。その他としては、学会参加費用および論文の英文校閲を予定している。
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