研究課題
アミノ酸窒素安定同位体比解析法は、従来のバルク(有機物全体)同位体比分析に比べ、水棲生物の食性や栄養段階を優れた精度で復元できる手段として、近年注目を集めている。しかしこの手法が陸上動物に適用可能かどうかの知見は少なく、陸上生態系や水陸混合系における精度の高い食物網研究が著しく遅れている主因になっている。本研究では、信頼度の高い食生態情報を読みとることを目指し、アミノ酸の窒素同位体比解析法の陸上生態系への適用を目的としている。昨年度までに飼育実験等により本手法の基礎検討を行い、陸上大型野生動物への適用可能性が見出されたことから、今年度は、科学的・社会的価値のある野生動物試料の一つとして、国後島に生息するヒグマの信頼度の高い食生態情報を読みとることを試みた。国後島には世界でも稀な白い体毛のヒグマが存在する。白いヒグマが一定数生息するのは、世界でもこの地域のみとみられているが、その理由は不明だ。アメリカクロクマでは、カナダのある個体群で白い体毛をもつ個体が約1割おり、この白いクマは黒いクマよりも魚から見えにくく、効率的にサケを捕食できることから、一定数生息し続けてきたのでは、と報告されている。そこで、国後島の白いヒグマと黒いヒグマの体毛のバルク窒素とアミノ酸窒素同位体比分析を行い、春から秋までの食性を推定した。その結果、バルク分析では両者の食性の違いは見られなかったが、アミノ酸分析では、どちらも初夏までは植物食であったが、夏から秋になるにつれ、白い体毛のほうがサケマスをより豊富に摂取していたと推測された。この結果が一般的かは今後試料数を増やし更なる検討が必要だが、食性が多様である野生下においても、バルク分析よりも精度よく食性の個体差や季節変化が検出された。以上より、アミノ酸窒素同位体比解析法は、陸上生態系の野生動物においても信頼度の高い食生態研究法となりうると考えられた。
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信州大学農学部AFC 報告
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