研究課題/領域番号 |
23770032
|
研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
山下 洋 独立行政法人水産総合研究センター, 西海区水産研究所, 研究員 (00583147)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | サンゴ礁生態系 / 褐虫藻放出現象 / 白化現象 / 海洋生態 / 生物圏現象 |
研究概要 |
近年,サンゴの白化現象によりサンゴ礁生態系の衰退が危惧されている。白化はサンゴ内に共生する褐虫藻(Symbiodinium属渦鞭毛藻)が過剰に放出される,あるいは死滅する等により起こる現象であるが,どのぐらいの量の褐虫藻が失われると白化するのかは不明である。本研究では,平時のサンゴがいつ・どのぐらいの量の褐虫藻を放出するのかを明らかにし,白化という異常時をとらえるための基準とすることを目的とする。本年度は,どの程度の量の褐虫藻がサンゴから放出されるか,また放出される褐虫藻量とサンゴ内褐虫藻の分裂(増殖)に関係があるかどうかを水槽実験により明らかにした。まず,石垣島浦底湾にて採取したスギノキミドリイシを研究所の流水水槽で数日間養生した後,明暗周期12:12 h,水温27°Cの実験用水槽(調温海水のかけ流し,3L/min.)に収容し2週間以上馴致した。実験は,流水状態で水槽内から採水を行い,採水後に止水とし1時間後に再度水槽内から採水を行い,止水前後の水槽内褐虫藻量の差から1時間当たりの褐虫藻放出量を求めた。放出された褐虫藻量の見積もりには我々の開発した定量PCRシステムを用いた。また,止水中にサンゴ組織の採取を行い,サンゴ内褐虫藻の分裂細胞の割合を顕微鏡下で求めた。その結果,放出量は明期に多く,暗期に少ない傾向であった。あるスギノキミドリイシ(骨格重量約210g)からは最大で1時間あたりに23万細胞もの褐虫藻が放出されていた。一方サンゴ内褐虫藻をみると,消灯後3時間程度から徐々に分裂細胞の割合が増え,点灯3時間前にはピークを迎え,点灯時には分裂が終了していた。分裂細胞の割合は最大で約15%であった。したがって,平時のサンゴにおいては夜間に分裂(増殖)した褐虫藻が昼間に放出されると考えられる。白化状態にないサンゴも比較的多量の褐虫藻を環境中に放出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,石垣島のサンゴ礁ではオニヒトデの食害によりサンゴが壊滅的なダメージを受けた。年度当初に設置した野外調査定点においてもサンゴがダメージを受けたため,比較的オニヒトデの影響の少ない地点に年度後半に再度設置した。また,水槽実験用のサンゴも食害の影響が少なくなった年度後半まで採取できなかったため,水槽実験の開始が遅れたが,現在までに解析もほぼ終了している。
|
今後の研究の推進方策 |
白化にもっとも影響があるとされる水温上昇時における褐虫藻放出量の日周性,およびサンゴ内褐虫藻の分裂割合を本年度設置した実験水槽を用いて明らかにする。同時に,野外定点周辺のサンゴから放出される褐虫藻量の季節変動を明らかにする,その際はオニヒトデによる食害の影響の少ない箇所,あるいはサンゴ種を対象とする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
年度当初に予定していた水槽実験が年度後半にずれ込んだため,解析用試薬類や解析用プラスチック消耗品費の一部を次年度に繰り越した。これらは平成24年度に計上している物品費(試薬類及びプラスチック消耗品)と合わせて使用する。
|