サンゴ礁生態系は多種多様な生物が生息し,高い生産性を有する生態系である。サンゴには褐虫藻と呼ばれるSymbiodinium属渦鞭毛藻が共生しているが,高水温などのストレスによりサンゴが過剰に褐虫藻を放出してしまう,あるいはサンゴ内で褐虫藻が死滅するなどしてサンゴが褐虫藻を失うと,時にサンゴの大量斃死にもつながる白化現象が起こる。本研究ではサンゴからいつ,どのぐらいの量の褐虫藻が放出されているのかを明らかにするため,水槽実験,野外調査を実施した。平成25年度は水温27度,やや高水温の水温30度の条件下における,サンゴからの褐虫藻放出量及びサンゴ内褐虫藻の細胞分裂指数を見積もった。3つの水槽にタチハナガサミドリイシを収容して27度で馴致後,3時間おきに10回,放出褐虫藻定量用の試料及び顕微鏡観察用のサンゴ内褐虫藻試料を採取した。試料採取後,徐々に水温を上昇させ30度で同様の試料を得た。放出されたクレードC褐虫藻を定量PCRにより定量したところ,水温27度に比べ30度の方がより多くの褐虫藻が放出された(水槽A:1.7倍,水槽B:1.5倍,水槽C:2.7倍)。一方でサンゴ内褐虫藻における分裂中の細胞の割合は27度では最大で10.5 ± 1.3 %であったのに対して,30度では6.2 ± 0.3 %と6割程度に減少していた。いずれの水温でも分裂細胞出現のピークは照明点灯前の4時~5時であり,これは平成23年度に実施したスギノキミドリイシを用いた観察結果とも一致した。また,野外のコブハマサンゴから放出されるクレードC褐虫藻細胞数を夏季(7月)と冬季(1月)でそれぞれ比較したところ,夏季の放出量は冬季に比べて7倍程度多かった。これらの実験・調査から,サンゴからの褐虫藻放出量は水温上昇により増加する一方で,サンゴ内褐虫藻の細胞分裂は水温上昇により抑制されると考えられた。
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