研究課題/領域番号 |
23770034
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 秀臣 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70582295)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 環境ストレス / トランスポゾン / シロイヌナズナ |
研究概要 |
本研究者は環境の変化が植物にもたらす影響について解析を行った。その結果、環境の変化が植物の進化に積極的な影響力を持つことをはじめて実証した(Ito et al. 2011 Nature)。環境ストレスである高温ストレスを植物に与えると転移因子(トランスポゾン)が活性化し、その子孫でトランスポゾンの挿入によるゲノム構造の変化が起ることを見つけた。このことはゲノム構造の変化によって引き起こされる様々な変異の中から高温に対する耐性を獲得した植物が誕生する可能性を示唆している。本研究の目的は、この熱活性型トランスポゾンを利用することで環境ストレスが植物ゲノムに与える影響を検証することであった。まず始めにこの熱活性型トランスポゾンの詳細な熱応答性を解析した。また、転移抑制に働く遺伝子の同定を行った。その結果、このトランスポゾンは37℃付近に熱応答性の閾値が存在し、siRNAが転移の抑制に働いていることを確認することができた (Matsunaga et al. Plant & Cell Physiol. 2011)。また、転写活性を制御している因子を同定するため、変異原処理した植物を用い高温ストレスで活性化するトランスポゾンが常温(22℃)でも活性化するような変異体の探索を行ために、熱活性型トランスポゾンにGFPを融合させた形質転換体の確立を行った。この形質転換体に変異原処理(EMS処理)を行うことで高温ストレス活性型トランスポゾンの活性を制御する因子の同定を行うことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・ 活性化したトランスポゾンの維持機構の解析 熱ストレスにより活性化したトランスポゾンがどのタイミングで転移するのか調査するために植物の成長段階ごとに熱ストレスを与えた場合の転移頻度を調査している。花成時期の変化と活性化トランスポゾンの転移の関係を調べるため、短日処理やシロイヌナズナの変異体を用いて花成時期を変化させた際の転移頻度の変化を調査している。現在熱ストレスを与えた植物の種子を採取中で、今後その子孫での転移頻度を解析する予定である。また、未分化な組織でのONSENの活性化の維持機構を解析するため、カルスでのONSENの発現と転移活性を調べた。その結果、カルスでは植物体とはことなりトランスポゾンの活性状態が比較的長く維持されていることが明らかとなった。今後カルスで転移がおこるのか調べ、再分化して作られた植物体での転移を解析する予定である。(Matsunaga et al. Plant Cell Physiol. 2011)・ ONSENの転写制御因子の同定ONSENの転写活性はトランスポゾンのLTR領域に存在するHeat Shock Factor banding siteが重要であることが示唆された。そのためこの領域を含むものと含まないもの、及び全長LTR領域をそれぞれ正逆方向にレポーター遺伝子であるGFPと融合させた形質転換体を作成した。現在までに一部の形質転換体の作成が終了し、この形質転換体は熱ストレスにより活性化しGFPの検出に成功している。今後はこの形質転換体に変異原処理を行い、熱ストレスをかけなくともGFP発現が起きるような変異体を単離し、ONSENの発現を抑制している因子の同定を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1、高温ストレス環境下で活性化するトランスポゾンの解析高温ストレスでトランスポゾンの転移が確認された系統の後代を用いてトランスポゾンの挿入変異体の同定を行う。現在までに本申請者が発見した高温ストレスで活性化されるトランスポゾンは宿主であるシロイヌナズナゲノム内の遺伝子領域に挿入されるというターゲット領域に偏った転移傾向を示している。このことは高頻度で挿入変異体が得られる可能性があることを示唆している。挿入されたトランスポゾンがホモ接合になるように自殖で得られた後代を用い変異体のトランスポゾン挿入領域の解析を行う。様々な挿入変異体が得られる中で、高温ストレスという環境ストレスによって実際にストレス適応能力を獲得した変異体を同定するためにトランスポゾンが転移した系統に新たにストレスを与えストレス耐性個体の同定を試みる。常温でトランスポゾンの転写活性が上昇する変異体のスクリーニングから高温ストレスで活性化するトランスポゾンの制御因子を同定できた場合その制御機構の解析を行う。具体的にはDNAのメチル化やヒストン修飾を調べることでこのトランスポゾンの制御に重要な役割を果たす要因を解明する。2、環境ストレスで活性化したトランスポゾンの転移制御機構の解析野生型植物に変異原処理を行いトランスポゾンの制御機構を担う因子の同定を行う。具体的にはトランスポゾンのプロモーター配列にレポーター遺伝子(GFP)を繋いだ形質転換体にEMS変異原処理を行い得られた変異体のなかからGFPの発現が見られるような変異体を検索し原因因子の同定を行う。その後同定された遺伝子の変異体を用いて実際に内在性のトランスポゾンの転移を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1、高温ストレス環境下で活性化するトランスポゾンの解析トランスポゾンの挿入変異体におけるゲノムワイドな解析を行うために、次世代シークエンサーを用いた解析を行う。ゲノムワイドな解析は理化学研究所との共同研究施設を利用するため23年度中に計画していた解析を次年度以降に行う。そのため、次年度に使用する予定の研究費は次世代シークエンサーを用いた解析のための消耗品、試薬関係の支払いに使用する。
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