研究課題/領域番号 |
23770042
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小山 知嗣 京都大学, 生命科学研究科, 研究員 (90450668)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 植物 / 発生 / 無限成長 / 有限成長 / TCP / シュート / 葉 |
研究概要 |
本研究では、高等植物の発生において、無限成長と有限成長を転換する分子メカニズムを明らかにし、この成長転換を遺伝子工学的に制御することを目的にしている。そのために、我々が同定した葉の形態のマスターレギュレーターであるTCP転写因子と、その下流遺伝子の機能を分子レベルで明らかにし、植物組織培養へ応用する基盤を構築する。TCP転写因子の中で、CIN-like TCP遺伝子を欠失する多重変異体の子葉から切片を作製し、そのカルス形成率を指標にして、脱分化能を評価した。その結果、野生型と比較して、低濃度のオーキシン含有培地で、tcp変異体の切片はカルスを形成することが明らかになった。次に、CIN-like TCP転写因子の下流で機能する一群のTCP転写因子の機能解析を行った。これらのTCPの中で、様々な遺伝子の組み合わせで、2重変異体を作製したが、表現型の違いは認められなかった。そのため、機能重複があると推測されるので、過剰発現体やCRES-T法を用いたSRDX体等の形質転換植物を作製した。これらの過剰変異体では、致死的な表現型を示すものがあり、それらの中で、TCP過剰変異体の1つは成熟胚の根が緑色を呈し、通常の胚発生では抑制される色素合成系への関与が示唆された。一方、そのTCPのSRDX体は芽生えで強い異常を示し、根が脱分化し、カルス様の細胞塊や不定芽を形成することがが明らかになった。一方で、CIN-like TCP転写因子の下流で機能する遺伝子の中で、ERFファミリーの転写因子の機能解析を行った。これらのERFを過剰発現した植物の葉では老、有限成長の最終段階である老化が促進されること、これらのERFを欠失した変異体の葉では老化が遅延することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的の達成度について、おおむね順調に進展している。今年度は、有限成長を示す子葉の分化制御におけるCIN-like TCP転写因子の役割を明らかにすることができた。植物の通常の発生において、有限成長を示す器官から無限成長を示す組織が生じることは稀であるが、脱分化の過程は有限成長から無限成長へ転換される重要な制御である。CIN-like TCP転写因子は、葉の形態を制御するばかりでなく、成長転換を制御する機能があることが明らかになった。さらに、CIN-like TCP転写因子の下流遺伝子の機能について、重要な予備的な知見を得る事ができた。CIN-like TCP転写因子は他のTCP転写因子を制御することにより、ファミリー内での機能調節を行っている可能性が示唆された。また、葉の有限成長における遺伝子制御ネットワークに、ERFタイプ転写因子が関与することも明らかになった。これらの解析から有限成長と無限成長の制御における重要な制御遺伝子を同定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、CIN-like TCPの下流で機能する転写因子を解析する。これら転写因子の発現解析やマイクロアレイ、ならびに、クロマチン免疫沈降による下流遺伝子の同定を行う。また、変異体や過剰発現植物を用いた解析により、それら転写因子の生物学的な機能を明らかにし、無限成長と有限成長を切りかえる分子機構の基盤を明らかにする。次年度は、有用植物のシュート再生の効率化を目的にして、CIN-like TCP遺伝子、および、CIN-like TCPの下流遺伝子を有用植物に導入する。導入する遺伝子は、過剰発現型、あるいは、ドミナント抑制型(SRDX)の発現コンストラクトを用いる。有用植物として、増殖に光のみを要求にし、スクロースを必要としない選抜細胞である光独立栄養培養細胞を用いる。これらの解析から、植物の成長を制御する遺伝子スイッチを開発できると期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子生物学実験、および、生化学実験の実施に必要な物品等を購入する。分子生物学実験では、遺伝子発現の検出に用いる試薬類やシーケンシング、核酸抽出に用いるキット類である。生化学実験では、抗体やタンパク質蓄積量を検出する試薬類である。その他に、プラスチック類や植物の栽培に必要な消耗品等を購入する予定である。研究打ち合わせや情報収集のために、国内外への出張を予定する。さらに成果を論文発表するために、英文校正や論文掲載料として、研究費を使用する予定である。
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