研究課題/領域番号 |
23770043
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山岡 尚平 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00378770)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / オルガネラ間相互作用 / Miro / ライブ・イメージング / ペルオキシソーム / ビオチン |
研究概要 |
ミトコンドリアを介したオルガネラ間相互作用は、様々な植物の代謝反応や生理機能にとって不可欠である。本研究では、ミトコンドリアの動態がオルガネラ間相互作用ひいては植物の生理機能にどのような役割を持つのかを明らかにする。本年度の成果として、1)ビオチンの生合成に、ミトコンドリアを介したオルガネラ間相互作用が必要であり、それが植物と菌類で進化的に保存されていることを明らかにした。ビオチン生合成の一段階を担う7-keto-8-amino-pelagonic acid(KAPA)合成酵素は進化的に保存されたペルオキシソーム局在シグナル(PTS)を持っており、麹菌におけるPTS受容体の欠失はKAPA合成酵素のペルオキシソーム局在性の喪失および菌生育におけるビオチン要求性をもたらすことを示した。KAPA合成酵素遺伝子はシロイヌナズナの生存に必須であり、またそれ以降の生合成反応はミトコンドリアで行われることから、ミトコンドリア―ペルオキシソーム間相互作用がビオチン生合成ひいては植物の生存に大きく寄与していることが本研究により明らかとなった。2)ミトコンドリアの細胞内分布を自在に操作できる形質転換植物の作出を試みている。研究代表者はこれまでミトコンドリア・ダイナミクスの主要制御因子であるMIRO1の欠失もしくは過剰発現によってミトコンドリアの細胞内局在が大きく変化することを明らかにした。これを利用して、MIRO1の発現量を人為的に操作できる形質転換植物を作出し、ミトコンドリアと他のオルガネラとの物理的近接がオルガネラ間相互作用にどのように寄与しているかを明らかにする。現在、誘導性プロモーターの下流にMIRO1の人工マイクロRNA (amiRNA)をつないだベクターを作成し、ミトコンドリア局在型GFPを持つベクターとともにシロイヌナズナへ導入、形質転換体の選抜と表現型の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで植物におけるオルガネラ間相互作用の生理的な意義が明らかにされた例は少なく、どのような代謝・生合成経路がオルガネラ間相互作用を必要とするかはほとんど明らかになっていない。ビオチンは、生体の基本要素である脂質やアミノ酸の生合成に必須の因子であり、その生合成は植物の生存にとって必要不可欠であることが知られている。本研究では、KAPA合成酵素が細胞質局在であるとの従来の説を覆し、それがペルオキシソーム局在であることを示し、ビオチン生合成にはミトコンドリアとペルオキシソームの間の相互作用が必要であることを明らかにした。またこのミトコンドリアを介したオルガネラ間相互作用は、植物のみならず菌類においても進化的に保存されていることを明らかにした。このことは、ミトコンドリアを介したオルガネラ間相互作用の新たな生理的意義と、植物界にとどまらないその普遍性を示すものである。これらの成果は、すでに論文として学術誌The Journal of Biological Chemistryに発表・掲載され、さらに複数の報道機関(朝日新聞、読売新聞、時事通信社、ヤフージャパンなど)により報道されている。以上のことから、今年度は当初の計画以上の研究の進展があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、1)ミトコンドリアの形態・細胞内分布を人為的に操作できる形質転換植物の作成を引き続き行う。方法として、誘導性プロモーター制御下でのamiRNA発現によるMIRO1ノックダウン実験系の開発を引き続き行う他、誘導性プロモーターによるMIRO1過剰発現系の開発も目指す。2)ミトコンドリアの形態・細胞内分布、および他のオルガネラとの物理的近接を定量的に観察する。今後、まず光変換可能な蛍光タンパク質Kaedeによりミトコンドリアを標識した形質転換植物を作出し、任意の時点で任意のミトコンドリアを標識、その後の動態を追跡できる実験系の確立を目指す。この実験系と1)の実験系を組み合わせることにより、MIRO1によるミトコンドリアの形態・細胞内分布の変化と、他のオルガネラとの近接現象を経時的・定量的に観察することが可能になると期待される。3)ミトコンドリアの形態・細胞内分布の操作による植物の生理機能への影響を解析する。これまでミトコンドリアを介したオルガネラ間相互作用は光呼吸や種子発芽時の脂肪酸代謝に必要であることが知られ、また本研究により新たにビオチン生合成にも寄与することが明らかとなった。そこで1)で作出した植物を用いてミトコンドリアの細胞内分布を変化させ、そのときこれらの植物の生理機能にどのような変化が生じるかを解析する。4)胚発生後の植物の発生におけるミトコンドリア動態の寄与を明らかにする。研究代表者はこれまで、MIRO1 を介したミトコンドリアの形態・細胞内分布の維持が花粉管の発芽・伸長と胚発生に必要であることを明らかにした。しかしMIRO1の欠失は胚性致死であったため、胚発生後の植物の発生においてミトコンドリアの動態がどのように寄与しているかは未だ不明である。そこでこの問題に対し1)で作出する形質転換植物を用いて主に発生生物学的方法による解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)試薬類および実験キットの継続的購入に用いる。前項に挙げた研究には遺伝子・タンパク質工学に基づく実験、および最先端の顕微鏡技術が必要となる。それらの実験・観察を迅速かつ効率的に遂行する上で、試薬類、実験キット、ディスポーザブル実験器具、植物および微生物の培養用品を十分に使用・補充し続けることは必要不可欠であり、それらの継続的購入のための費用が必要である。2)抗体開発のために用いる。MIRO1を含め本研究の対象となる遺伝子産物の多くは新奇なタンパク質であり、これまでそれらを特異的に認識する抗体が開発されていない。本研究の目的のひとつはMIRO1発現量の人為的操作が可能な形質転換植物を作成することであるが、より信頼度の高い発現量の評価には抗体を用いた解析が必要不可欠である。そこで本研究では対象となるタンパク質の抗体の開発を行う。3)情報処理機器の購入に用いる。本研究では画像処理を含めた高度な情報処理が必要である。効率良い作業のために高度な画像処理が可能なソフトウェアおよび大容量ハードディスクが必要となる。4)研究成果の公表のため用いる。平成24年度は本研究の最終年度に当たり、研究成果の国内外での学会における発表、および論文の投稿を目指しており、そのための費用・出張旅費が必要となる。
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