研究課題
プログラム細胞死は、壊死とは異なり生物に利益をもたらす遺伝的に制御された積極的な細胞レベルでの死である。植物において、細胞死が病害抵抗性を始めとする防御応答や器官形成等の高次機能の制御に幅広く関与することが明らかになってきているが、細胞死の誘導に直接関わる転写制御メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。これまでの研究から、細胞死の制御に関わることを明らかにしているAtbZIP10は、AtbZIP53、ABI3と共に「エンハンセオソーム」という転写活性化能が非常に強い転写因子複合体を形成することで、貯蔵タンパク質の蓄積や浸透圧調節などに関わる遺伝子群の転写制御を行っていることが報告されている。細胞死誘導の転写制御においてもAtbZIP10等から構成されるエンハンセオソームが機能していると示唆されることから、本研究ではAtbZIP10を含むエンハンセオソームに注目し、モデル植物シロイヌナズナにおいてエンハンセオソームによる細胞死誘導遺伝子の転写制御に関する実験を行うことで、植物細胞死の誘導の転写制御の分子機構の全体像を明らかにすることを目的とした。共発現解析などによりAtbZIP10の直接の標的遺伝子の候補として同定した細胞死誘導に関わるγVPEとLSD1は、AtbZIP10、AtbZIP53、ABI3の3つの転写因子の存在下でのみ強く転写活性化されることを既に明らかにした。またクロマチン免疫沈降(Ch-IP)法を用いた実験から、AtbZIP10がγVPEとLSD1のプロモーター領域上へ結合することも明らかにした。過去の知見を総合すると、細胞死誘導に関わるγVPEとLSD1がAtbZIP10の直接の標的遺伝子であり、AtbZIP10がトリガーとして機能することでエンハンセオソームによりこれら遺伝子の転写が強く活性化されると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度にはエンハンセオソームによる細胞死関連遺伝子の転写活性化の調査を終了し、平成24年度に新たにCh-IP法を用いたAtbZIP10の標的遺伝子の解析を完了した。しかしながら、(1)T-DNA挿入変異体を用いた細胞死誘導に関わるエンハンセオソームを形成するABI3/VP1型転写因子群の同定、及び(2)エンハンセオソームを形成する転写因子間の相互作用解析が予定通り進まなかった。(1)については、変異体の細胞死表現型の解析手法の確立に手間取り、実験系の確立はできたが、クリアな結果を得るまでにはまだ至っていない。(2)については、酵母のツーハイブリット法では相互作用を調べたい領域の解析ができなかったため、現在は別法による解析を試みている。どちらの実験に関してもデータが出つつあるので、平成25年度には結果が得られると期待される。
前述のように鍵となるデータは得られてきているが、本年度予定通り進まなかった実験については、平成25年度中に終了できるよう研究に取り組む。また、まだ取り組めていない、細胞死誘導に関わるエンハンセオソームを形成する新奇タンパク質の同定も精力的にすすめていく予定である。
平成24年度に生じた次年度使用額は少額であり、生じた理由は学内の受託解析費が予想した額よりも少額であったためである。この助成金も含め、平成25年度では本研究課題の遂行にかかる備品・消耗品の購入、研究内容の発表に関わる旅費、及び関連する研究内容の公表にかかる経費などを支出する予定である。
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