フィトクロムは植物の主要な光受容体であり、その分子は、発色団を結合し光受容に働くN末端領域と、二量体化に働きキナーゼ様ドメインを持つC末端領域の、2つのドメインから成る。従来、フィトクロムはC末端領域内のキナーゼ活性により下流へシグナルを伝達すると信じられてきたが、我々は、フィトクロムの最も主要な分子種であるphyBがN末端領域からシグナルを発すること、一方C末端領域はシグナル伝達に必要でないばかりかむしろ阻害的に働くことなどを明らかにした。この発見は従来の常識を覆すものであり、フィトクロムのシグナル伝達機構を一から考え直す必要が生じた。 そこで本研究は、現在全く未知であるphyB N末端領域からの光シグナル伝達機構の本質を分子レベルで理解するために、phyB N末端領域から直接光シグナルを受け取る新奇下流因子を明らかにする目的で、phyBのN末端領域と物理的に相互作用する蛋白質を生化学的手法により同定することを試みた。これまでに、同様の実験は複数の研究室で試みられてきたが、思うような成果は上がっていない。その理由は、活性型フィトクロム分子の立体構造が不安定であり、下流因子との結合が一過的であるためだと考えられる。そこで本研究では、phyBの立体構造を恒常的に活性型へと固定するアミノ酸置換変異Y276Hを導入することで、下流因子との結合を安定化させ、上記問題を解決する。そして解析を進めた結果、活性型のphyB N末端領域に特異的に結合する因子として、スプライシング関連の因子が複数同定された。
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