研究概要 |
高等植物の葉緑体ストロマでは、光などの環境条件により光合成電子伝達速度が変化することによって、レドックス状態が大きく変わり、タンパク質のレドックス制御が行われている。これに対し、チラコイド膜を隔てた内腔ではそのような機構は知られていなかった。しかし最近、ストロマ側からの還元力を利用してチラコイド内腔でもタンパク質のレドックス制御の可能性が示唆されている。 本年度はチラコイド内腔に還元力を伝達するチオレドキシン(Trx)に絞って研究を行った。シロイヌナズナのプラスチドには少なくとも5グループ10種類のTrxが存在する。In vitroの実験から、m型Trxがチラコイド内腔に還元力を伝達していることが示唆されている。そこでその可能性を評価するためにm型Trxの突然変異株を単離し、研究を行った。m型Trxには4つのアイソフォームが存在する。trx m1,m2,m4一重変異株、それぞれの二重変異株は野生株と同様の成長を示したが、trx m124三重変異株は野生株と比較して植物の大きさが小さく、クロロフィル含量も少なかった。これはストロマからチラコイド内腔への還元力伝達に関与するCcdAタンパク質の蓄積を欠く変異株の表現型と一致している。以上の結果からin vivoにおいてもm型Trxが還元力伝達に関与する可能性が示唆された。 trx m124三重変異株のもう一つの特徴的な表現型として、熱散逸のパラメーターであるNPQに異常が見られた。NPQの誘導にはチラコイド内腔タンパク質が関与している。三重変異株ではチラコイド内腔の還元力不足でNPQの誘導に異常があるのかもしれない。今後は、個々のタンパク質のレドックス状態を調べることによってチラコイド内腔でレドックス制御の標的になっているタンパク質を同定する。
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