研究課題/領域番号 |
23770054
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
米田 新 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50553715)
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 細胞壁 / 細胞骨格 / 道菅 / パターン形成 |
研究概要 |
当研究室ではこれまでに木部道管細胞分化のマスター制御因子としてNAC転写因子VND7を同定しており、このVND7を人為的に機能誘導することにより高頻度かつ同調的にシロイヌナズナ植物体やタバコ培養細胞BY-2の様々な組織・器官の細胞を木部道管様細胞へ分化転換させることが出来る実験系を確立している。 本年度はこの道菅分化誘導系を用いて、分化率や二次細胞壁の形成に変化を起こす新奇生理活性小分子化合物の選抜を行った。化合物ライブラリには、理化学研究所より分与されたパイロット・ライブラリとオーセンティック・ライブラリ、カリフォルニア大学リバーサイド校より分与されたLATCAライブラリを用いた。スクリーニングは現在も進行中であるが、すでに細胞死を引き起こす物、細胞形態を変化させる物、道菅様細胞への分化率を変化させる物、二次細胞壁の形成に異常を引き起こす物など、多数の候補化合物を得ている。いくつかの候補化合物については、ライブラリのデータベースに記載されている化合物を新規に購入して再現性を確認出来ている。また、シロイヌナズナ植物体にも添加し、タバコ培養細胞BY-2を用いた時と同様の表現型を観察している。興味深いことに、共通の部分分子構造を持った複数の候補化合物が得られており、またこの共通部分のみでも似た表現型が引き起こされたことから、この共通の分子構造が生理活性に重要であることが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇生理活性小分子化合物のスクリーニングが順調に進んでいる。すでに複数の候補化合物を得ており、これらについては再現性の確認や植物種による感受性の違いの検証などを進めている。さらに、一部の候補小分子化合物については共通構造を見い出したため、生理活性に必要な構造の絞り込みを行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらにスクリーニングを続け、さらなる候補化合物の選抜を行う。また、候補化合物添加後の植物サンプルを熱分解GC/MSに供することで細胞壁成分の変化を解析し、さらに候補化合物の選抜を進める。 得られた候補化合物については、随時標的因子の探索を行う。具体的には、候補化合物を結合させたアフィニティ・カラムを作成し、生化学的な手法により結合化合物を直接単離することを目指す。一方、遺伝学的な耐性変異体のスクリーニングも平行して行い、候補化合物の直接・間接の作用機序・標的因子を同定する。アフィニティ精製のためには、まず類縁体化合物ライブラリを作成することで、生理活性に影響を及ぼさない官能基を同定し、そこにリンカー分子を結合させることによってアフィニティ・カラムを作成する。植物サンプルから調整した可溶性タンパク質・膜タンパク質・細胞壁結合性タンパク質をそれぞれ添加し、候補小分子化合物に特異的に結合する標的タンパク質を同定する。遺伝学的な解析では、EMS処理によって得られた遺伝子欠損変異体群、もしくはcDNA過剰発現体のFOXハンティング・ライブラリから、候補化合物に対しより感受性が変化する変異体を探索する。その原因遺伝子を特定することで、小分子化合物の作用機序を推定する。 最終的には、二次細胞壁の合成に関わる未知の機構を明らかにすることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで新奇生理活性小分子化合物のスクリーニングは概ね順調に進んでいるものの、それら化合物の標的因子探索は進行途中であり、そのために必要な類縁体化合物の購入やアフィニティー・カラムの作成費などで未使用額が生じた。 これらをさらに進めるため、次年度では得られた候補化合物について、その化合物自体を新規購入して再現性を確認すると共に、その類縁体を複数種類購入し、生理活性に重要/不要な官能基を決定する。概して新規の小分子化合物は高価であり、場合によっては新規受託合成を必要とするので、まとまった研究費の支出が予想される。生化学的標的因子探索に必要なアフィニティ・カラムの作成やタンパク質の精製・解析、遺伝学的解析に必要な培地・シャーレ・分子生物学用試薬などの消耗品が必要になる。 また、得られた研究成果を学会などで報告するため、また共同研究先との打ち合わせや実験を行うため、旅費の支出も必要となる。
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