研究課題/領域番号 |
23770060
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
富永 基樹 独立行政法人理化学研究所, 中野生体膜研究室, 専任研究員 (50419892)
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キーワード | 植物生理学 |
研究概要 |
本研究では,植物ミオシンに速度レベルの異なる他種ミオシンのモータードメインを融合し植物体で発現させ,細胞内交通や植物高次機能への影響を解析する。これまでにない全く新しい試みから,ノックアウト等の一般的方法論では得られない知見を抽出する。高速型 (High-speed)作製には生物界最速であるシャジクモミオシンXIのモータードメイン,低速型 (Low-speed)作製には動物ミオシンVbのモータードメインを用いた。 1.定量化。原形質流動の主な駆動力とされるミオシンXI-2の速度改変型キメラを植物で発現させた。結果,高速型では植物体が大型化し,逆に低速型では植物体が小型化することが明らかとなった。H24年度では,詳細な定量解析を行った。結果,植物の大型化と小型化は,それぞれ細胞サイズの大型化と小型化に起因することが明らかとなった。 2.原形質流動に関与するミオシンメンバーの速度改変。原形質流動の駆動力として機能する他のミオシンXIメンバー(XI-1, XI-K)にシャジクモミオシンモータードメインを融合し高速化を施した。それぞれのシングルノックアウト株にアグロバクテリウムを介して形質転換し,T3ホモラインを確立した。表現型解析を行ったところ,高速型XI-1の発現は植物のサイズに影響を及ぼさなかったが,高速型XI-Kの発現は植物を大型化する傾向が見られた。影響の違いは,それぞれの発現レベルや原形質流動へ寄与と一致することが示唆された。 3.原形質流動以外のミオシンXIメンバーの速度改変。原形質流動に関与する4メンバー以外にも,多数のミオシンXIメンバーが存在し,それぞれの機能に関してはほとんど明らかになっていない。H24年度は,これらミオシンXIメンバー全てに高速化・低速化を施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,ミオシンXI-2の高速化・低速化が植物の大型化・小型化を引き起こすという現象を見出し,学会やシンポジウム等で多数の発表を行った。結果,非常にポジティブな評価を得られたと考えている。また,詳細な定量解析を行い,現在論文投稿中である。加えて,原形質流動に関与する他のミオシンXIメンバーに関しても高速化を行った。結果,メンバーの発現量や原形質流動への寄与に依存して大型化が明らかとなった。このことから,キメラミオシンXIによる原形質流動の速度改変が,植物の成長制御に直接的に作用している事を強く支持する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1.原形質流動に関与するミオシンメンバーの速度改変 ミオシンXI-2以外にも、原形質流動の動力と考えられるミオシンメンバーが複数存在する(XI-1, XI-B, XI-I, XI-K)。H24年度では,これらのミオシン中2メンバーに関して,高速キメラ化を行った。結果,発現量が多いミオシンXI-Kに関して,植物の大型化が明らかとなった。今後,大型化が見られたミオシンXI-2とXI-Kの間で,詳しい表現型解析を行い,両者が単に相補的なモーターなのか,あるいは何か特異的な機能分担を持つのかを解析して行く。また,高速型ミオシンXI-2とXI-Kを同時発現させた場合の,原形質流動速度への影響,植物サイズへの影響を解析して行く。これらの解析によって,高等植物の原形質流動の本質的役割や,サイズ制御との関係を明らかにしていく。 2.原形質流動以外のミオシンメンバーの速度改変と発現 これまで,Promoter-GUS解析やイメージング解析からミオシンメンバーの発現パターンや細胞内局在に多様性があることを見出した。ミオシンXIは原形質流動の駆動力のみならず,様々な機能を持っていることが示唆される。しかしながら,それぞれのノックアウトでは,ほとんど表現型が出ないため,特異的な機能を同定することが難しい。H24年度ではシロイヌナズナで発現するミオシンXI全メンバーにおいて,速度改変型のコンストラクト作製が完了した。今後,それらのメンバーを順次植物で発現させることによって,それぞれの特異的機能の同定を進める。 解析を行ったミオシンメンバー変異体に関して,最終的に得られた細胞レベルでの輸送異常と高次機能における表現型異常を体系的に関連させ,統合的解析を行う。経路を遮断しない速度改変による解析から,細胞内交通と高次機能を結びつけることができる新規情報が得られると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では,論文作成のため定量解析を中心に実験を行った。また,モータードメインの置換においては,In fusion cloning技術をベースとした簡便なシステムを構築できたことから,予算の消費を抑えることが出来た。未使用額を次年度にまわし,今後多数の解析が必要になると考えられる形質転換植物の培養や解析に充てる予定である。 物品費2,480,000 旅費:100,000 計:2,580,000
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