研究課題
アンモニアの解毒は生命維持のために必要不可欠な仕組みである。本研究は両生類の発生過程で起こるアンモニア排泄型から尿素合成・排泄型への窒素代謝変換をトリガーする因子を探索し、その作用機構の解明を目的としている。この仕組みの解明は我々哺乳類の胎児(アンモニア排泄)から新生児(尿素排泄)への過程で発症する窒素代謝疾患の原因を探る足がかりになると考えられる。我々はアフリカツメガエルを用いて、アンモニアから尿素を合成する律速酵素(CPS I)の発現を誘導する因子を探索した。まず、発生過程におけるCPS I遺伝子の発現動態をリアルタイムPCR法によって定量したところ、受精後5日目のst.47から顕著なCPS I遺伝子の発現が検出された。st.47幼生が実際に尿素の合成および排泄を行っているかを確かめるため、飼育水中の尿素濃度をウレアーゼ・インドフェノール法により定量した。その結果、st.47幼生から飼育水中に尿素が検出され、この時期にアンモニア排泄に加えて、尿素も合成し排泄していることが示された。CPS I遺伝子の発現を調節する因子を探索するため、CPS I遺伝子の5’上流領域の転写因子結合サイトを予測したところ、グルココルチコイド応答配列やcAMP応答配列の他、肝細胞核因子3α(HNF3α)やCCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBPα)の結合サイトが確認された。そこで、グルココルチコイド受容体(GR)、cAMP応答配列結合タンパク質1(CREB1)、HNF3α、C/EBPαの個体発生における発現変化を解析した結果、CREB1、 HNF3αとC/EBPαは顕著な変化を示さなかったが、GRは受精後4日のst.44~45をピークとする発現変化を示した。したがって、発生初期段階におけるCPS1の発現にコルチコステロンとその受容体GRが関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初から目的の一つと位置付けていた尿素合成の律速酵素であるCPS Iの発現を調節する因子としてコルチコステロンとその受容体(グルココルチコイド受容体)を特定することに成功した。
現在、個体へのコルチコステロンおよびグルココルチコイド受容体アンタゴニストの投与がCPS I遺伝子の発現や尿素合成能にどのような影響を及ぼすかについて解析を行っている。また、アフリカツメガエル肝臓由来細胞株A8細胞を用いて、in vitro実験系での尿素合成機構の解析を準備している。これによりin vivoとin vitroの両方でグルココルチコイドによる尿素合成の調節機構を明らかにすることができる。
平成24年度は上述の推進方策にそって、尿素合成機構における候補因子の機能について、個体レベルと細胞レベルで解析を行うが、研究費の主たる用途は分子生物学実験試薬などの消耗品が大部分を占める。また、研究成果発表の為に旅費を計上している。
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