動物の集水・吸水メカニズムについて、口器以外の知見は極めて乏しい。これまで、等脚目に属するフナムシ類が体表の構造を用いた独特な吸水様式を獲得していることを明らかにしてきた。すなわち2対の後肢(第6肢と第7肢)の表面に存在する、クチクラの毛状突起が規則正しい列を形成するという精密な機構を介した海水の吸水とその調整である。しかしこのような精密な構造であるがゆえに「汚れの付着」と「構造の摩耗」という不安定性にさらされている。そこで本研究では微細列構造とその特性の経時的変化を形態学的及び物性の面から追跡することにより、吸水メカニズムとその機能の不安定性を明らかにし、脱皮リズムの関連を明らかにすることを目的とした。 フナムシは成虫脱皮を繰り返し体サイズを大きくしていくが、これに伴って吸水機能も変化すると考えられる。不安定性の要因と して「汚れの付着」と「構造の摩耗」が脱皮の間にどの程度生じているのかを明らかにするため、走査型電子顕微鏡像を用いた画像解析を行った。その結果、脱皮前の個体では脱皮直後の個体に比べて、列構造に多くの汚れの付着があることが明らかになった。汚れの付着が多く見られた周縁部の毛の列は、毛細管現象により水を重力に逆らって上昇させる機能があることから、この部位の汚れは水の吸水効率を低下させる可能性が示唆された。 また、これまでフナムシの孵化直後の幼体は脚を6対しかもたず、水中に長く滞在する生活様式であるため、脚の列構造を用いた吸水機能は有さないと考えられてきた。しかし、本研究により幼体の持つ6対の脚のうち最も後側の2対に成体と同様の列構造を有することを新たに明らかにした。フナムシの幼体は親個体の保育嚢から放出された後、約3週間で最初の脱皮を行い、7対の脚を持つようになる。この時に新しく増えた脚は最後尾にできることが明らかになった。
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