研究課題
本研究の目的は、脊索動物ワカレオタマボヤを線虫のように真に有用で単純な研究モデル動物として確立することである。ワカレオタマボヤOikopleura dioicaは脊索動物門に属する海洋性動物プランクトンで、脊椎動物にもっとも近縁な無脊椎動物の一群に含まれる。脊椎動物と共通の基本体制を備えるが、世代時間が約5日、また生活史を通じて透明で、線虫に比するほど単純な細胞構成とコンパクトなゲノムを持つ。私は前任地である大阪大学理学研究科生物科学専攻西田宏記教授の研究室のメンバーとともに、この動物を実験室内で長期経代飼育する技術を確立し、また外来の核酸からタンパク質を生体内で発現させる手法を完成していた。前年度に、我々はこの動物で高効率なRNAiを引き起こせることを見出し、また核局在性蛍光タンパク質の合成mRNAを卵巣に注入すると、胚の細胞核に安定した蛍光局在を観察できることを示していた。本年度は以下に取り組んだ。(1)RNAiの手法を内在性の遺伝子に対して適用した。ワカレオタマボヤの脊索に特異的な転写因子をコードするBrachyury遺伝子に対して、そのdsRNAを卵巣に注入すると、生まれた胚での有意なBrachyury遺伝子発現の減退と顕著な尾部の退縮が観察された。(2)これまでほとんど分かっていなかった孵化後の組織構築過程についてイメージング技術を適用したところ、非常に好適な観察ができ、今後一細胞レベルに基づく詳細な器官形成過程の研究が可能になることが分かった。(3)電子顕微鏡観察をワカレオタマボヤと同時に採取される様々なオタマボヤ類とあわせ詳細に行った。それによりオタマボヤ類の尾部表皮の組織構築には驚くべき多様性が存在することを見出した。本研究を通して発展した技術、観察事実は、この動物の新しいモデル生物としての有用性を高め、今後多くの発見をもたらす基盤となるものである。
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Development, Genes and Evolution
巻: in press ページ: in press
10.1007/s00427-013-0438-8
数理解析研究所講究録
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