研究課題/領域番号 |
23770064
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
関田 諭子 高知大学, 研究教育部総合科学系, 准教授 (70314979)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 微細構造 / サンゴ / 褐虫藻 / 共生 / 渦鞭毛藻 |
研究概要 |
サンゴ礁生態系は,地球上で最も生物生産性と多様性が高い生態系の一つである。その主要構成要素である造礁サンゴは,褐虫藻と呼ばれる渦鞭毛藻類が共生することで生存のためのエネルギーを獲得し,熱帯・亜熱帯海域を中心にサンゴ礁を形成して生物多様性の維持に重要な役割を果たしている。しかし近年,世界各地でサンゴ礁劣化が進み,その大きな原因の一つであるサンゴの白化現象は,サンゴと褐虫藻の共生関係が海水温上昇などの様々な環境ストレスにより破綻することで生じるとされているが,それを引き起こす要因や細胞レベルでの作用機序,褐虫藻の詳細な動態等の白化メカニズムについては未解明な部分が多い。 まずは,環境負荷条件下でのサンゴ-褐虫藻の微細構造変化を比較する上で重要となる健康な状態でのサンゴ-褐虫藻細胞と培養細胞の微細構造を明確にするため,透過型電子顕微鏡試料作製における固定条件・方法(各種化学固定,凍結固定,フリーズエッチング法等)の確立を試みた。また,サンゴは障害を受けるとその部分に新たな組織が広がり,再生する能力を有する。その再生過程において,褐虫藻の細胞分裂の過程,分裂した褐虫藻のサンゴ内での移動や分配様式などのサンゴ細胞と褐虫藻の挙動を光学顕微鏡・電子顕微鏡観察することにより解明することを試みた。さらに,高温条件下でサンゴを培養し,サンゴ-褐虫藻共生細胞の細胞小器官の微細構造の変化,および褐虫藻の形態変化,および排出または消化の過程を電子顕微鏡観察することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,サンゴと褐虫藻の共生関係が破綻する白化現象が問題となっている。しかし,その白化のメカニズムや褐虫藻の詳細な動態などの基礎的知見については未解明な部分が少なくない。本研究では,褐虫藻の挙動に焦点を当て,実験室レベルでの各種環境ストレス条件下におけるサンゴ-褐虫藻共生系の成立と維持および破綻のメカニズムを電子顕微鏡を駆使した細胞微細構造の変化の解析から解明することを目的とした。環境負荷条件下でのサンゴ-褐虫藻の微細構造変化を比較する上で重要となる健康な状態でのサンゴ-褐虫藻細胞と培養細胞の微細構造を明確にするための透過型電子顕微鏡試料作製における固定法がおおむね確立し,健康なサンゴ内での褐虫藻の挙動,特にサンゴの中で二分裂して増加している褐虫藻の細胞分裂の過程,分裂した褐虫藻のサンゴ内での移動や分配様式の詳細を解明しつつある。また,問題となっている白化誘導時の細胞微細構造の変化として,高温条件下でサンゴ-褐虫藻共生細胞を培養し,サンゴ-褐虫藻共生細胞の細胞小器官の微細構造の変化の過程を透過型電子顕微鏡によって明らかにしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き,健康なサンゴ内での褐虫藻の挙動,白化誘導時の褐虫藻の挙動,白化回復時の褐虫藻の挙動に関する研究を実施し,さらに,以下の2点についても研究を行う予定である。 褐虫藻共生のタイミング:サンゴの受精卵と培養褐虫藻を共培養してサンゴ胚発生の過程を経時的に固定する。それにより褐虫藻の取り込みのタイミングとその過程,褐虫藻の分裂と分配のメカニズムを微細形態学的視点から解明する。 褐虫藻の環境ストレス応答性:種々の環境負荷条件下(高温,低温,強光等)でのサンゴおよび褐虫藻の形態・微細構造の変化を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画に基づいた経費執行について,4月,5月に支払いすべき経費が残っているため,次年度使用額が存在するように見えるが,実際には26円を残して大半を執行予定である。 本研究に必要な機器は概ねそろったが,本研究では,フリーズフラクチャー法や凍結固定を行うことから,消耗品ではあるが,比較的高価な蒸着材料(白金など)や液体窒素が多量に必要になる。このことから,次年度は主に消耗品費での研究費の使用を予定している。
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