無尾両生類の鼻腔の腹側前方には、通常の嗅上皮に隣接して嗅陥凹(recessus olfactorius)という陥凹部が存在する。ヒキガエルの嗅陥凹の表面を覆う上皮の形態観察を電子顕微鏡で行った結果、感覚細胞には繊毛型と微絨毛型の両方がみられ、鋤鼻上皮の感覚細胞の構成と似ていることが分かった。 嗅陥凹上皮と鋤鼻上皮からの神経投射については、カルボシアニン蛍光色素でそれぞれの感覚上皮の神経を標識し、投射先の副嗅球における糸球体の分布を比較した。その結果、嗅陥凹上皮からの神経は副嗅球前半部および、副嗅球後半部の前側に投射がみられ、鋤鼻上皮からの神経が投射する糸球体とは異なる分布をもつことが明らかになった。 嗅陥凹上皮の機能については、膜電位感受性色素(di-8-ANEPPS)を用いた光計測法により匂い応答の測定を行った。嗅陥凹上皮では、アミノ酸混合液の刺激に対して明瞭な過分極性の膜電位変化が記録された。その他の刺激では、シネオールやトリメチルアミンに対して微弱な脱分極性の膜電位変化が記録されたが、これらの刺激に対しては嗅上皮でも脱分極性の膜電位変化がみられた。嗅陥凹上皮だけが特異的に応答する物質の特定には至らず、機能特性の解明については今後の研究課題として残った。 アミノ酸に対する応答は嗅上皮の腹外側部でもみられ、電子顕微鏡観察の結果この部分には繊毛型感覚細胞と微絨毛型感覚細胞が混在することが分かった。また、この嗅上皮腹外側部からの神経投射先は主嗅球であることから、微絨毛型感覚細胞を含む領域が主嗅覚系にも存在することが示された。以上の結果より、ヒキガエルでは嗅上皮と鋤鼻上皮の間に両者の中間的な特徴を備えた嗅上皮腹外側部と嗅陥凹上皮が存在し、嗅覚系感覚器が4つの領域で構成されていることが明らかになった。
|