生物の体及び組織の成長は摂食に伴う栄養状態の変化に応じて厳密に制御されている。この成長制御因子として最も良く知られているのが、インスリン様ペプチド(insulin-like peptides; ILPs)である。本研究では、ILPs の機能を制御する機構の解明を目的とし、キイロショウジョウバエをモデル生物として研究を進めた。本年度は、血中におけるILPs の活性制御機構に着目して以下の解析を行い、新規のILPs制御因子を発見した。 1. 様々な分泌性タンパク質をコードする遺伝子に対するRNAiスクリーニングを行った結果、CG3837遺伝子(後に、分泌型おとりインスリン様受容体[Secreted Decoy of InR; SDR]と命名)の機能低下により体サイズが大きくなることを見出した。SDRは、インスリン様受容体に非常に良く似ているが、細胞膜貫通領域及び細胞内領域を持たない分泌性タンパク質であった。2.SDR変異体では末梢組織におけるインスリン/IGFシグナル伝達経路が活性化し、結果的に体サイズが大きくなること、逆に、SDR過剰発現個体は、体サイズが顕著に小さくなることが明らかになった。3.SDRがいくつかのILPsと直接的に結合することが明らかになった。4.SDR変異体を栄養の枯渇した培地で飼育すると、蛹期における致死率が顕著に上昇した。 以上の結果により、SDRは血中に分泌され、おとり受容体として血中のILPsに直接結合し、体の成長を負に制御していることが示された。本研究で発見されたインスリンのおとり受容体は、我々ヒトにも存在することが示唆されていることから、将来的にインスリンやIGFが関与する糖尿病や成長疾患、がんなどの病態理解と治療に向けた手法開発の一助になることが大いに期待される。本研究成果は、科学誌Genes & Development誌に掲載された。
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