研究課題/領域番号 |
23770075
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
村田 芳博 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (40377031)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シナプス / 可塑性 / 長期増強 / 副嗅球 / マウス |
研究概要 |
雄マウスの尿中には雌マウスの妊娠を阻止するフェロモンが含まれている。しかし、交尾相手の雄フェロモンに限っては妊娠阻止作用が見られない。これは、雌マウスが交尾相手の雄フェロモンを記憶しているからだと考えられている。この記憶の座は鋤鼻系の一次中枢である副嗅球(AOB)にあり、AOBへ蛋白合成阻害薬であるアニソマイシンをin vivo投与するとフェロモン記憶の形成は阻害されることが報告されている。また、AOBの僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプス伝達では、記憶の基礎過程と考えられる長期増強(LTP)が入力特異的に誘導されると報告されている。しかし、AOBのLTPに蛋白合成が必要かどうかは明らかではない。そこで本研究では、マウスAOBシナプスのLTPに対する蛋白合成阻害の影響を調べた。そのために、AOBの急性スライス標本を作製し、顆粒細胞由来の集合電位(fEPSP)を記録した。外側嗅索に高頻度刺激を与えると、fEPSPのスロープ値は増大し、高頻度刺激後180分でもその増大は維持された。すなわち、LTPが誘導されたと考えられる。一方、アニソマイシン存在下で外側嗅索に高頻度刺激を与えると、その直後にfEPSPのスロープ値は増大し、30分でもその増大は維持されたが、高頻度刺激後150分ではその増大が見られなくなった。以上の結果から、AOBにおけるLTP、特に遅延相(L-LTP)には新規の蛋白合成が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、マウスAOB僧帽細胞・顆粒細胞間の相反性シナプスで誘導されるLTPについて、その遅延相の維持に関わる因子を明らかにすることを目指した。そのために、平成23年度は過去に報告されていたLTPの誘導条件を改善することに成功し、L-LTPをより安定して維持することが可能になった。さらに、マウス副嗅球シナプスにおけるL-LTPは新規蛋白合成に依存していることを電気生理学的・薬理学的に示した。しかし、目標としていた新規に合成されL-LTPに寄与する因子の同定には至らず、引き続き解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成23年度中にLTPの遅延相に関与する各種因子の解析を完了させることにしていた。しかし、LTPをより効率的に誘導する条件の検討に予想以上の時間を要した。このことから計画の遅延を余儀なくされたため、機能解析に使用予定であった経費を平成24年度に繰り越すこととした。平成24年度は、1) L-LTPにおけるフェロモン記憶関連分子の役割解析と、2) 実際のフェロモン記憶により生じる副嗅球単一ニューロンの可塑的変化の解析に焦点を絞って実験を行う。前者はこれまでに候補として挙げている因子を、電気生理学・薬理学実験に加えて分子生物学的および組織学的に解析する。後者は遺伝子改変マウスとパッチクランプ法の組み合わせにより、雄フェロモン刺激で可視化された僧帽細胞・顆粒細胞の電気生理学的特性を単一ニューロンレベルで明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に必要な設備は全て揃っているため、設備備品費は平成24年度も計上しない。試薬代は、L-LTPに関与することが予想される因子について、その阻害薬、免疫組織化学法で用いる抗体やRT-PCR法に用いる試薬一式の購入に充てる。器具代は、主に記録電極用ガラスキャピラリーの購入に充てる。動物飼育代として、野生型マウスおよび遺伝子改変マウスの管理に係る経費を計上する。旅費は、国内学会3回と海外学会1回の参加発表を予定しており、その必要経費を支出する。さらに、遺伝子改変マウスを用いた実験を本格化させるために実験補助者1名分の謝金を計上する。
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