雄マウスの尿に含まれているフェロモンには、雌マウスの妊娠を阻止する作用がある。しかし、交尾相手の雄フェロモンに限っては妊娠阻止作用が見られない。これは、雌マウスが交尾相手の雄フェロモンを記憶しているからだと考えられ、この記憶の座は鋤鼻系の一次中枢である副嗅球(AOB)にあることが報告されている。また、AOBの僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプス伝達では、記憶の基礎過程と考えられる長期増強(LTP)が入力特異的に誘導されると報告されている。そこで本研究では、マウスAOBシナプスのLTPの神経メカニズムを明らかにするため、種々の薬剤の影響を電気生理学実験により調べてきた。平成23年度には、AOBのLTP遅延相が蛋白合成に依存していることが明らかになったため、LTPの維持に関与する因子の解明に取り組んだ。同定するには至らなかったが、少なくとも、蛋白合成依存的に維持されるLTPの遅延相は、海馬や大脳皮質での報告と同様に、protein kinase Mzeta pseudosubstrate inhibitory peptide (ZIP)に対して感受性を有する成分であることが分かった。
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