研究課題/領域番号 |
23770077
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (00584153)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 終脳 / 脳波 / コイ |
研究概要 |
コイの脳波を測定するために、電気分解法を用いて双極のタングステン電極を作成した予備実験から体長が約20 cm程度のコイでは頭蓋骨から終脳背側部までの距離が約12 mmであることが明らかとなっている。そこでコイの頭部にドリルを用いて約5 mmの穴を開け、作成した電極の先端が終脳背側部に触れるようにアガロースおよびデンタルセメントを用いて固定した。電極の装着には約30分間を要した。電極の装着後、魚を実験水槽に移して手術から回復させるために1日馴馳した。電極から延びるリード線は発泡スチロールに巻きつけ、測定時にのみ生体電気アンプと接続した。実験の結果、装着から1週間は電極の脱落はみられなかった。また、異常行動も観察されなかった。つまり、本研究における電極の装着方法を用いることでコイの自由遊泳を阻害することなく1週間程度の脳波測定が可能であると考えられる。1回の実験で電極を装着した供試魚および電極を装着していない供試魚2匹を合わせた3匹を用いた。供試魚に電極を装着後、1日馴馳し音による条件付けを開始した。放音直後は供試魚は餌を見つけることができず給餌場所へはほとんど集魚しなかったが、時間が経過するにつれて集魚するようになり約3日条件付けが完了した。条件付けが完了した個体と条件付けをおこなっていない個体からそれぞれ生体電気アンプおよびAD変換器を用いて電位変化を測定した。条件付けを行った個体では放音直後に明らかな波形の変化が認められた。つまり、放音前後で記録された波形の違いは、音源への移動時にとった反応もしくは行動を反映した脳波を表している可能性が考えられた。本手法を用いることで自由遊泳中の魚からの脳波を測定することが可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではコイの脳波の測定のための装置作成および測定系を確立したと言える。今年度はさらに実験個体数を増やし、実験魚の行動と脳波との関係性について明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では実験期間の大半を装置の作成および実験系の確立に費やしたため、まだコイの脳波変化の一般性について議論するには実験個体数が少なく不十分である。そのため今後も継続的に測定を行い、条件付けに伴った脳波に関して詳細な解析を行う必要があると考えられる。本研究では最終目標は脳波を測定するための神経ロガーの開発であるため、具体的にはどのような周波数帯に脳波変化が表れているのかについて明らかにする必要ある。データロガーを用いたバイオロギング研究において、行動データを取得する際に重要になってくるのがデータの記録媒体としてのロガーのメモリ量とサンプリング間隔の関係である。一般的に、データのサンプリング間隔を短くしてデータの精度を向上すれば、蓄積されるデータ量が多くなり、記録時間が短縮する。つまり、メモリ量とサンプリング間隔はトレードオフの関係にある。魚類の脳波を定量的に解析するためにはどの程度のサンプリング間隔でデータを取得し、どのような波形が導出されるのかをまず明らかにする必要がある。ハトは帰巣中、海岸線を通過するときの脳波が、12-60 Hzの成分に顕著なピークを示すことが報告されている(Alexei et al., 2009)。例えば、魚が何かを認識した際に12-60 Hzの周波数帯に顕著なピークが現れると仮定すると、ナイキスト周波数(ある信号を標本化するとき、そのサンプリング周波数 の 1/2 の周波数)を超えるとエイリアシングを起こすため、最低でも120 Hz以上のサンプリング間隔を設定する必要がある。今後、早急にデータ数を増やしデータロガーで記録するための最適なサンプリング間隔を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は長焦点顕微鏡を購入予定であったが、顕微鏡本体の代替品が手に入ったため購入の必要がなくなり今年度へ基金を繰り越した。脳波は数μVという非常に微弱な電位であるためノイズによって消えてしまう可能性が十分にある。これを解消するために今年度はHum Bun Noise Eliminator(Quest Scientifics)の購入を予定している。また、来年度から引き続き実験魚の購入および実験消耗品の購入に研究費を使用することを計画している。
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