【背景・目的】本研究では魚類の回帰・固執行動解明を最終目標とした脳波導出用の神経ロガー開発を目的として、自由遊泳中のコイからの脳波導出法の確立(実験①)、および脳波ロガーを用いた自由遊泳中のサケからの脳波導出(実験②)を試みた。【方法】実験①:麻酔で不動化したコイの頭部にドリルで約径直5 mmの穴を開け、電極の先端が終脳背側部に触れるように挿入し固定した。電極装着後、給餌場所が壁で仕切られた実験水槽内で12時間馴致した。実験水槽に設置したスピーカーから500 Hzの断続音(音圧110 dB)を10秒間放音すると同時に、給餌場所にフードタイマーから自動的に給餌が行われるように設定した。この試行を10分間隔で1日に36回行い、行動をビデオカメラで記録した。放音と同時に給餌場所に集魚するようになったら、供試魚が給餌までの経路を認識し、条件付けが完了したものとした。条件付け後、放音のみで音源に向かった供試魚の波形を記録し、そうでない個体と比較・解析した。実験②:標津川で捕獲したサケに実験①と同様の脳波測定用の電極を固定し、脳波ロガーに接続後、背部付近に装着した。その後、実験魚を自由遊泳させ脳波を記録した。サンプリングレートは200 Hzに設定した。 【結果・考察】実験①:供試魚の条件付けが完了するのに約3日を要した。条件付けが完了した個体からは放音前後で明らかに異なる波形が記録されたが、そうでない個体は音源に向かわず波形の変化はみられなかった。つまり、記録された波形の違いは、音源への移動時にとった反応もしくは行動を反映した脳波を表している可能性が考えられた。実験②:実験魚は電極装着後も、脳波ロガーを装着していない魚と比べて異常な行動はみられなかった。脳波については現在解析中であるが、現在のところ連続的に記録可能な時間は2.5時間であるためより長期的な脳波記録可能なデータロガーの開発が期待される。
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