研究課題/領域番号 |
23770078
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
佐々木 謙 金沢工業大学, バイオ・化学部, 准教授 (40387353)
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キーワード | ドーパミン / ハナバチ類 / カースト / 繁殖制御 / 生体アミン / 受容体 / 合成酵素 |
研究概要 |
社会性昆虫で見られる繁殖分業は巣の成長や繁殖の高効率化に寄与しており、繁殖制御機構の解明は繁殖分業の進化過程を知る上で重要な課題である。本研究では、社会性進化の程度の異なる3種のハナバチを用いて、生殖腺刺激ホルモンの候補であるドーパミンについて、生殖腺の発達に伴うドーパミン関連物質量やドーパミン受容体遺伝子・合成系遺伝子の発現量の変化を調査し、ドーパミンを調節する生理的要因や環境要因を特定する。 平成24年度では、まずセイヨウミツバチにおいて、女王とワーカー間でドーパミン受容体遺伝子やドーパミン合成系酵素遺伝子の脳内発現量をRT-PCR法により定量し、比較した。ドーパミン受容体(3種類)の遺伝子発現量や合成酵素遺伝子発現量において、女王とワーカー間で大きな違いは検出されなかった。無女王群ワーカーにチロシンやローヤルゼリーを経口摂取させた実験では、脳内でのドーパミン関連物質の上昇が検出されたが、ドーパミン合成系酵素遺伝子の発現量に影響は見られなかった。オスのドーパミン合成系酵素遺伝子の発現量は脳内で日齢に依存して増加したが、メソプレン処理による発現量への影響は検出できなかった。 クロマルハナバチにおいて、二酸化炭素ガス対するメスの脳内ドーパミン量の減少や卵巣発達への影響が見られた。オスでは、日齢に依存した脳内ドーパミン量の動態、活動性と飛翔活性の日齢変化、および生殖器官の形態変化が特定できた。また、ドーパミン受容体遺伝子、ドーパミン合成系酵素遺伝子の発現定量系の確立のために、プライマーを設計し、実験条件の検討を行った。 キムネクマバチにおいて、メソプレン処理による脳内ドーパミン量や他の生体アミン量への影響を調査した。その結果、脳内ドーパミンにおいてのみ、メソプレンの影響を受けることが分かり、ミツバチのオスと同様のドーパミン制御機構を備えていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実験計画に沿って実験を遂行することができ、実験に用いた3種それぞれにおいて、次年度の研究につながる研究成果を残すことができた。各種の具体的な達成度に関しては後述するが、今年度の「研究の目的」に対する全体の達成度は高いといえる。 セイヨウミツバチにおいて、メスの脳内ドーパミン量に影響を与える要因が合成酵素の遺伝子発現や酵素活性ではなく、女王物質の存在やローヤルゼリー、チロシン摂取であることが証明できた。この成果の一部を今年度に投稿論文として発表した。無女王群ワーカーにおけるチロシン摂取やローヤルゼリー摂取による脳内ドーパミン量への影響については、現在、投稿論文用の原稿を執筆している。オスでは、性成熟に伴う脳内・胸部神経節内ドーパミン関連物質とオクトパミン関連物質の動態を明らかにし、これらの物質がオスの繁殖行動の一部である交尾飛行の活性を高めることを実験的に証明した。また、メソプレン処理により、脳内ドーパミンが増加し、オクトパミンへの影響が検出されなかった結果は、メスのメソプレンに対する作用とは大きく異なり、重要な発見である。この成果をまとめた投稿論文は学術雑誌に受理され、現在、印刷中である。このように、ミツバチを用いた実験では、今年度の「研究の目的」に対する達成度は十分高いといえる。 クロマルハナバチにおいては、オスの日齢に依存した脳内ドーパミン・オクトパミンの動態とそれに伴う行動変化や性成熟を明らかにした。今後、その役割を実験的に証明し、論文化を目指す。ワーカーによる脳内ドーパミンと卵巣発達との関係は、今後、追及する必要がある。 キムネクマバチにおいては、オスのメソプレン処理による脳内ドーパミンへの影響を示唆する結果が得られ、現在、論文化を進めている。メスを用いた実験が遅れているが、オスを用いた実験は計画通りに進行しており、今年度の達成度は高いといえる。
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今後の研究の推進方策 |
セイヨウミツバチを用いた研究では、餌(特にローヤルゼリー)由来のチロシン摂取がメスの脳内ドーパミン量に大きな影響を与えていることが分かり、次年度では、オスでのチロシン摂取や餌条件の違いによる脳内ドーパミン量への影響、女王物質に対する脳内ドーパミン量への影響を調査する。 クロマルハナバチを用いた研究では、オスの脳内ドーパミン・オクトパミンの動態が明らかになったことから、それぞれの役割をドーパミン・オクトパミンの注入や受容体ドラッグの注入により明らかにしていく。メスでは卵巣発達とドーパミンとの関係を調査する。さらに、メソプレンに対する脳内ドーパミン・オクトパミンへの影響について、オス・メスで調査する。 キムネクマバチを用いた研究では、ドーパミン受容体遺伝子のクローニングと受容体遺伝子発現を定量化する実験系を確立し、それを適用できるようにする。特にオスのメソプレン処理に対する脳内ドーパミン受容体遺伝子発現への影響を明らかにし、セイヨウミツバチのオスとの比較を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度までに定量リアルタイムPCRシステムによるドーパミン関連遺伝子の発現が定量できるようになった。次年度では、RNAの抽出過程をより効率良く行うためにホモジナイザーやPCRウェルプレートを遠心するための簡易遠心機などの物品の購入を行う。また、RNA抽出や定量リアルタイムPCRを行うための試薬や消耗品の使用が増えることから、これらの購入のために費用を確保する必要がある。 セイヨウミツバチやクロマルハナバチを実験に用いるために、業者からそれぞれの巣を複数購入し、飼育道具の一部を補充する必要がある。さらにメソプレンや受容体ドラッグ処理実験などで用いる試薬・消耗品の購入、脳内アミン量の定量で使用するHPLC用試薬やカラム、電極などの消耗品の購入を随時行い、実験が円滑に行われるようにする。また、サンプリングやサンプルの保存に用いる液体窒素とその保存容器の購入も行う。 実験の遂行と平行して、成果発表も積極的に行い、投稿論文作成の際に必要な英文校閲費や学会発表・研究集会の際の旅費を確保し、使用する。
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