種分化は生物多様性を作り出す原動力だと考えられる。渓流沿い植物ヤシャゼンマイとその姉妹種ゼンマイでは、それぞれの生育環境において適応的な形質が複数明らかになっており、遺伝地図に基づいた適応的形質の遺伝的背景と自然選択圧のかかり方の解析により、種分化過程に起こるゲノム領域ごとの遺伝的な分化について調べてきた。 細葉形質に関しては相関が強くみられる遺伝子座がみつかり、この適応的形質を支配する遺伝子が含まれるゲノム領域が明らかになった。しかし、小羽片の基部の角度や下側最下の脈から分岐する脈の数、葉形指数などは、独立に分離する可能性が示唆され、遺伝地図のマーカー密度を上げて、個体数を増やした上でマッピングする必要がある。分子マーカーを増やすために次世代シークエンス解析を行い、ヤシャゼンマイとゼンマイのゲノム配列を取得し、全コンティグ31545配列から変異のある10830配列が選び出した。現在、この配列に基づいてマーカーを開発している。 また、両種間では繁殖様式が分化していて、ヤシャゼンマイの高い自配受精能は、渓流沿いという特殊な生育環境で分布を拡げるために有利だと考えられるが、人工交配集団の解析から、ゼンマイにみられる劣性有害遺伝子が失われていることによる可能性が高いと考えられた。この遺伝子座は連鎖群11上に存在し、解析の結果、野外雑種集団ではヘテロ接合度が高く、ヤシャゼンマイでみられる有害な効果をもたない対立遺伝子はゼンマイ集団に遺伝子浸透しやすいことなどが示唆された。但し、周囲にヤシャゼンマイが生育しない熱海集団では遺伝子浸透が起こっていないことが確認されている。このゲノム領域はゼンマイでは他殖性を維持する役割があることが考えられ、さらに詳細な解析が必要である。
|